しかし当たり前のように、諫早湾は閉め切られ、その後、潮受け堤防排水門の開門の是非が司法判断にゆだねられ、先日、最高裁は開門を命じた二○一○年の確定判決を無効とする司法判断を維持した。一度は開門の決定がされたのに、「開門せず」で決着。特産の海苔は不作、海底はヘドロの濁った状態。漁業者の悲願は拒否された。

 開門調査を求めた漁業者側に対し、干拓事業とその後の海の変化の因果関係を認めなかった。素人目にも明らかなことが認められない。一縷(いちる)の望みも断ち切られ、国は金で解決するつもりだろうが、あの豊かな海は戻らない。ムツゴロウやタイラギの墓場は増え続ける。

 有明海という私たちの財産をどうするか。法廷闘争は決着しても、問題は解決していない。

 私たちは時とともに大切なことを忘れていく。身近な地球環境をどうやったら取り戻せるのか改めて考えさせられた。

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

週刊朝日  2023年3月24日号

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