近年は京町家の改修に伴って庭を再生する仕事が増えた。今回の撮影地もそうで、樹齢100年超の木をそのままに、コワーキング、飲食店、珈琲焙煎所などが入る京町家群の中庭をコミュニティー空間としてよみがえらせた。各オーナーの要望に対応するのに「余計なものは置かない」、使う庭を重視した。
庭のベンチは、元々この土地にあった平たい石を再利用。石の表面がつるつるした質感なのは、かつてこの家の人が石の上を歩いていたから。そんな昔の生活の気配を感じ取って、何も加工せずに元の形のままを生かす。
いつも心に置く言葉は「自然の乞わんにしたがって」。平安時代の造園書『作庭記』の一節で、自然のあるがままに従う、という意。「平安時代に生み出されたものが現代にも息づいている」と感じる。
庭とは「心地いい場所。それだけで十分」と言う。「今の心地よさとは何か」を考えながら、いにしえから変わらない自然を相手に、庭と人のよりよい関係を探っている。(ライター・桝郷春美)
※AERA 2023年1月-9日合併号