<え? コーエツって何? 編集とかじゃないの? 出版社でしょ? 何する仕事なの?>。それは文書や原稿の誤りをただす仕事のこと。どんな本も雑誌も校閲なしには成り立たない。「週刊朝日」ももちろんそう。
 宮木あや子『校閲ガール』の主人公はその校閲者だ。河野悦子は景凡社の校閲部に配属されて2年目。景凡社は週刊誌と女性ファッション雑誌が主力の出版社で、悦子もファッション雑誌の編集者志望だったが、「名前が校閲っぽい」という理由でここに回され、なんの興味もない文芸書の校閲をさせられている。
 彼女が担当しているのは、たとえばエロミス(エロが売り物のミステリー)の大物作家・本郷大作の新作、覆面作家・是永是之の書き下ろし、セレブ御用達ブランドの代表者・フロイライン登紀子の古めかしいファッションエッセー……。作中には彼らが書いた文章と悦子が赤を入れた箇所も登場。カバーをはずすと「ゲラ」と呼ばれる校正紙を模した表紙が現れる! それやこれやで本好きな読者にはたまらない……はずなんだけど、せっかくの魅力的な設定をこの小説は生かしきれていない。
<だから私のせいじゃないって言ってんじゃんよ! あんたが指示書に書かないからでしょうが! 私はうちのルールどおりに鉛筆入れて開いただけなんですけど!?><空気くらい読めよこのゆとりが! なんだこの『漢字が多すぎて読みにくいがOK?』って!>ってな校閲者と編集者のやりとりがガチャガチャしすぎているせいなのか、はたまた<編集者と違って校閲担当者は普通、作家と顔を合わせたりしない>といいつつ、顔を合わせまくるうえ、ラブコメ風の展開まで待っているストーリーのせいなのか。
 ジェイ・マキナニー『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』とも川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』ともちがう、校閲者のお仕事小説まであと一歩だったのになあ。いったい誰が悪いのか。作者か編集者か、それとも校閲者か!?

週刊朝日 2014年6月13日号

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