世界を舞台に活躍する建築家が自身の源にある哲学を探った。建てる人、使う人、周りの人と、さまざまな人の身になって考える建築設計は、いつも自分が粉砕される作業を伴う。その思考と行動形式を、「大倉山」「田園調布」といった場所を手掛かりに書く。
人の履いている靴が気になると著者はいう。その人がどう世界とつながっているか、どう自然と接続しているかがわかるからだ。その意味で靴と建築は似ている。横浜の大倉山にあった生家は農家の庭先を借りており、少年のころは晴れた日にも素足で長靴を履き、土の感触を感じた。コンクリートのル・コルビュジエ、鉄の建築のミース・ファン・デル・ローエが二大巨匠とされた学生時代に影響を受けたのは、日本の木造建築の美しさを説く内田祥哉だった。風や光や匂いが感じられる、隙間の多い建築へと向かう原点がここにある。
デザインの基本は拒否の姿勢だという。現状を肯定する「いいね」は新しいものを生み出さない。何がいいのかわからなくても、「違う」と言い続けることが創造につながるのだ。
※週刊朝日 2014年5月30日号