タカラヅカといえば、金髪リーゼントにつけまつ毛バッサーの凛々しい男役というアレだ。そんなものにまるで興味がなかったのに、突然タカラジェンヌのリストラ役を申し渡された本社の社員、娘が宝塚に入りたいと言い出して慌てふためく父親。女ばかりの劇団を陰から支える男たち、“ヅカメン”の知られざる奮闘を描く六つの連作短編集である。
「月の番人」の主人公は阪急電車で鉄道ひとすじだった元駅長。退職後、「お父ちゃん」とよばれる生徒監(タカラジェンヌの世話役)を頼まれる。渋々始めたものの、生徒の芸名・本名・ニックネームとメイク顔・素顔を全部一致させるのに一苦労。ため息をつけば「幸せの妖精が死ぬからついちゃダメ」とたしなめられる。幸せの妖精って何なんだ!と絶句。
「女だけの劇団なんて」と敬遠していた男たちだが、清く正しく美しく、常に上を目指す彼女らの熱意とプロ根性を目の当たりにして、宝塚への愛と仕事への情熱に目覚め始める。
歌劇団の仕組みや挨拶やらなんやらの宝塚独特のルールなど、舞台の外の宝塚世界もつぶさに描かれ、まことに興味深い。
※週刊朝日 2014年5月30日号