1990年代より「TOKYO No.1 SOUL SET」などいくつかのユニット、グループで活動を続けているミュージシャンの渡辺俊美氏さん。この度、渡辺さんが高校へ通う息子のために、3年間全461食作り続けたお弁当の数々を収録したフォトエッセイを発表しました。
渡辺さんはお弁当を作るにあたり、
(1)調理の時間は40分以内。
(2)一食にかける値段は300円以内。
(3)おがずは材料から作る。
という3つのルールをまず決めたそうです。そうして作られたお弁当は、栄養バランスだけでなく、見た目にもしっかりと工夫がなされ、思わず真似してみたくなるようなものばかり。さらには、おすすめの調味料や料理道具、食材の保存方法といった、料理に関して役に立つコラムも充実しています。
そして本書は、料理本という枠に留まるのではなく、息子とのエピソードが語られていくことで、お父さんと息子の心温まる一つのストーリーをも見せてくれます。
渡辺さんは次のように述べます。
「ひとりで子供を育てている人、特に男ですからシングルファーザーを応援したいという気持ちは強くあります。うちはよく話をする方だけど、正直なところ、子供が本当はどんな気持ちでいるかなんて、わからないことが多いんです。コミュニケーションを取ろうとしても、仕事をしている最中で時間は限られるので、不十分なことも多い。しかし、いくら悩んだって、考えたって、お腹は空くものです。それなら、まずは親子でおいしいものを食べればいいんじゃないかと思います。毎日同じものを食べている親子なら、〝おいしい!″と思うツボは似ていると思います。どんなに忙しくても〝これ、おいしいね″という一言だけでも交わすことが、すごく大事なんじゃないかと思います」
お弁当が父と息子を繋ぐものとして、重要な役割を果たしていたことが伺え、その記録である一枚一枚のお弁当の写真は、親子の絆の重みを伝えてくれます。毎日きちんと作られるお弁当は、父の息子への愛情を示す何よりの証だったのだと言えるのではないでしょうか。
本書は料理本としてはもちろんのこと、一組の親子が過ごして来た年月の記録としても、大変魅力的な一冊となっています。