あとニューヨークに来て変わったのは、差別や民主主義について考える機会が増えたこと。最初はアジア人ヘイトへの恐怖心からだったが、次第に小さな差別に気づくようになった。

 例えばレストランのトイレ。ユニセックス(男女の別がない)トイレをよく見る。誰でもどのトイレも使えてLGBTQに対応している。他には、アンケートの性別欄。日本だと男→女の順だが、米国では女→男の順番も多く、必ず「どちらでもない」の選択肢がある。アメリカに慣れた後、日本のサイトで性別を選ぶと、必ず男→女の順なのが悲しかった。マイクロ・ アグレッションというのだが、「無意識の差別で悪意なく傷つける」ことだ。そうか、これって差別だったのか。

 なぜ日本は違うのか考えると、とどのつまり民主主義の問題だと思う。実はこの1年、街角でデモによくあった。戦争、ヘイトクライム、銃規制、中絶、賃金アップ。小学生が市議会で「学校のプラスチックに規制を!」という呼びかける光景も見た。日本では考えられない。アメリカは若い国だから、奴隷制や移民排斥など、むき出しの差別をみんなの声で変えてきた歴史がある。頭では知っていたが、デモに遭遇するたびに、みんなの声で社会を作るという民主主義について考えさせられた。日本の性別欄が男性優先のままなのは、結局、わたしが声に出さないからだ。みんなで意見を言って議論する、アメリカの尊敬すべき点と日本の現実の間で心は揺れる。

 いろいろな気づきがあった留学もまもなく終わる。正直、英語はあまり上達していなくて、50代の語学の伸び代は微妙だ。息子の発音が上達したのを見ると、若い時に留学したかったと息子にジェラシー(笑)。

 でも、50歳だからこそ意味があったとも思う。大人になると新しいことに踏み出すのが怖くなる。できない理由を仕事や家族とひもづけて躊躇(ちゅうちょ)する。でも、ニューヨークで感じたのは「何歳からでも、 どんなことでも、挑戦していい」だ。50代は、人生の残り時間を意識しはじめる年代だが、だからこそチャレンジが必要なのだ。

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