日本の企業の美点を語るとき、一体感はその一つとして必ず取りあげられてきた。実際、今でも多くの企業が社員の一体感を重視して組織を運営しているが、そこに『「一体感」が会社を潰す』と訴える本が出た。
 著者の秋山進は経営・組織コンサルタントとして25年間、規模も業種も異なる30社以上の日本の企業で働き、「組織は本当にコドモだ」と実感したらしい。秋山がそう感じた事例は、まず<個人がコドモ?><組織文化がコドモ?><マネジメントがコドモ?>に三分類され、それぞれに5パターンずつ列挙されている。
 少々くどく感じるほどの現場の事例を読むと、バブル崩壊までは通用した、一体感に裏打ちされた一致団結型の企業の問題点がよくわかる。当事者意識が低く他者批判に長け、そのくせ忠誠の証しをたてるように上司に従い、失敗から学ばずにまた同じ失敗をする人と組織……秋山が「コドモ」と呼ぶそれらの現実は、では、どうすれば改善されるのか。
 そこはやはり「組織は人なり」の箴言に倣い、組織を構成する一人ひとりが「大人」になるしかないようだ。経済的に自立できる一流の技術をもち、外部からの支配や制御を受けずに自律して仕事ができる人。大人の定義を「自立と自律」に求める秋山の主張に私は賛同するが、そういう人物はほぼ間違いなく、企業では変人とみなされるだろう。若い頃から大人だった秋山自身もその点に言及し、企業における変人の身の処し方までアドバイスしている。
 しかし私がもっとも感心したのは、秋山が現在、代表取締役をつとめる組織の内実だった。隣接した専門分野をもつ優秀な技術者9人が、仕事の内容によって「自律した生態系」のようにチームを組んでリーダーを立てるという運営は、貴重な変人が活躍する方法論として実に興味深い。企業でくすぶる大人たちのためにも、次はぜひ、この組織の実状について書いてほしい。

週刊朝日 2014年4月11日号