『サーフ・ライド』アート・ペッパー
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『ブルース・エット』カーティス・フラー
『オパス・デ・ジャズ』ミルト・ジャクソン
『ワイルダーン・ワイルダー』ジョー・ワイルダー

 レーベル特集3回目はサヴォイです。しかしこのレーベルにはいろいろと思い出がある。ジャズ喫茶を始めたころ、最初に導入したわずかなレコードの中に、かなりの枚数このレーベルがありました。なぜ覚えているかというと、あの一種異様なジャケット感覚ですね。

 ヘタウマではなく、単にヘタなだけのビキニのオネエさんがサーフィンをやっているイラストのアート・ペッパー『サーフ・ライド』、どう見ても田舎のオッサンが趣味でアルトを吹いているとしか見えない、チャーリー・パーカー様サヴォイ・セッション。特に後者はジャケットの曲名表示・パーソネルと中身がズレていることが日常(輸入盤のことです、念のため)。

 しかし共に内容は5つ星なのでしょっちゅう店でかけるため、イヤでもジャケットのダサいイメージが刷り込まれる。1939年ハーマン・ルビンスキーによって設立され、1975年アリスタに買収されるまでモダン・ジャズ全盛期を生き抜いてきたこのレーベルは、ルビンスキーのたぐい希な商才によってジャズ史に名をとどめることとなった。

 しかしそれは売れ筋を求め中身を甘くした「商魂」とは一線を画し、単にギャラにシビアなだけ。現場への介入はテディ・レイグ、オジー・カデナといったプロデューサーに任せた合理的なもの。同時代のブルーノート、プレスティッジに比べ、大物、ハードバッパーの目立った作品こそ少ないけれど、なんといってもパーカーの絶頂期を捉えているだけでサヴォイの名前は不滅。

 他の有名どころを挙げれば、まずは60年代にジャズ喫茶シーンで一世を風靡した名曲《ボヘミア・アフターダーク》がウリの、カーティス・フラー『ブルース・エット』。これもまたヒドいジャケットですよね。それはそうと、「いーぐる」でかけるのはB面1曲目《マイナー・ヴァンプ》、こちらの方がマニア向け。

 ちなみに1枚5万円也のガラスCDでこのアルバムを聴いたことがあるけれど、確かに音は良かった。つまりはもともとの録音がシッカリしているということ。当時の輸入アナログ盤の音質に問題があったのは、もしかしたら素材をケチったからかも……。黒ビニールにゴミが浮き出ているような迫力盤もありましたね。

 もう1枚の有名盤はご存知ミルト・ジャクソンの『オパス・デ・ジャズ』、これもまた良くリクエストが掛かりました。懐かしい!

 知られざる名盤をご紹介するとすれば、渋めのトランペットが心地よいジョー・ワイルダー『ワイルダーン・ワイルダー』。1956年ハードバップ絶頂期ながら、大物連中はすでにブルーノート、プレスティッジの子飼い。そこでオジー・カデナは中間派(スイング風)味付けの小傑作を生み出したというわけ。このあたりの地道な感覚、けっこう好きです。

 そしてこれまた「ジャケ買い」に不向きな隠れ名演が『ハンク・ジョーンズ・カルテット・クインテット』。実にシブいというか、葬式の遺影のようなモノクロ写真のジャケットはいったい誰が考え付いたんだろう。イヤ、誰も、何も考えていないに違いない。それはさておき、一般ウケするピアノ・トリオではなく、トランペットのドナルド・バードが入っているところがミソ。想像通りバリバリ、ハードバップではないけれど、じっくりと渋茶でもすすりながら聴きたくなる好演です。[次回4/21(月)更新予定]

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