大西みつぐさんがメガホンをとった初の映画作品『小名木川物語』の製作発表会が行われた。クランクアップはこの夏の予定で、公開は年内を予定している。
東京の下町、深川は大西さんが生まれ育った街だ。写真を撮り始めたころから、この街を歩き回り、丹念にスナップしてきた。
「昭和時代の思い出や郷愁には、映画の記憶がともないます。僕自身も仕事で川本三郎さんと出会ってから、映画で描かれた東京というものに、いっそう興味を持ちだしました」
大西さんが好きな映画の一つに、山田洋二監督の作品『下町の太陽』(1963年公開)がある。深川と同じく、東京の東側の下町である曳舟を舞台にした青春ドラマだが、そこには時代の空気と、豊かとも思える街の空間がしっかりと刻まれている。
「この映画の公開当時は、(登場人物たちが)"明日への希望"を熱く語っているところが鬱陶しくも思えました。しかし今、あらためて観直すと、そのことが素直にこちら側に届いてきますし、街の記録として大事な部分をよく伝えていることに気づくんですね」
いまの深川に住む人たちを主人公にして、この街に関わっている人たちの手で映画が作れないか。大西さんの衝動的な想いから、このプロジェクトは動き始めた。
「2012年の夏、数十年ぶりに深川の神輿を担ぎました。その一体感と高揚した気持ちから、みんなで映画が撮れるのではないかと思いついたんです」
深川では若い力が集まり、コミュニティー活動が活発に進められてきた。大西さんも街の写真撮影を通じて、5年ほど前から、そのメンバーに参画している。
その仲間を中心に、「深川の映画を作る」企画に賛同した人たちが少しずつ増えて、このプロジェクトは進んできた。
プロデューサーの東海亮樹さんは、「撮影は昨年春から始めています。いったいどうなるのか、まったく分からないまま走りだして、ようやく完成させられる手応えが見えたので、今回製作発表をさせてもらうことにしました」と話す。
大きなスポンサーは持たず、企画に賛同した一人ひとりの手弁当で製作を進めている。全員が本業を持っての作業のため、撮影は月に2~3回のペースだ。
10年ぶりに故郷に戻ってきた若者を主人公に、心惹かれる街の女性の導きで、深川の人や歴史の記憶と出会う。そうしたストーリーの中で、今、深川に住む人々をドキュメンタリー的に撮影して作り上げていく、という映画だ。
また、この映画には、深川にゆかり深い重要な人物の影がある。俳人の石田波郷(いしだ・はきょう)だ。戦後の10数年を深川の隣町である砂町に住み、多くの句や散文を残している。波郷は写真好きでもあり、街の写真も数多く撮影した。
「波郷の句をたどりながら、現在の街を訪ねる。波郷が著した『江東歳時記』(講談社文芸文庫刊)を平成の今、試みることでもあるかもしれない」
撮影はニコンD600を使い、映像作家の芹澤良克さんが担当する。豊富なニコンの交換レンズを駆使し、シーンに応じて最適なレンズを選び、撮影を行なっている。監督である大西さんは、映画のスチール撮影を担当するとともに、「この機会に、街の人をきちんと写真に収めていく」と、もう一つの課題を自らに課している。
現在、鋭意制作中だが、「精神的、物質的支援は随時募集しています」と東海プロデューサー。公式ホームページ(http://onagigawa.com/)で最新情報、問い合わせが可能だ。
(市井康延)
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「小名木川物語」公式ホームページ