『セカンドアルバム(仮) (通常盤)』アップアップガールズ(仮)
『セカンドアルバム(仮) (通常盤)』アップアップガールズ(仮)
『セカンドアルバム(仮) (2CD / 初回限定盤)』アップアップガールズ(仮)
『セカンドアルバム(仮) (2CD / 初回限定盤)』アップアップガールズ(仮)
撮影・原田和典
撮影・原田和典

 今まで生きてきた中で最高の元日だった。
こんなに幸せな気分をもたらし、脳みそがとろけるような快感に浸らせてくれる「1月1日」がまさか、この歳になって味わえるとは思わなかった。赤坂行きの地下鉄に乗っているときの“はやる気持ち”、新春用に装飾された華やかな街並み、ライヴの開催を祝うかのようにあちこちから聞こえる「おめでとうございます」の声。目を閉じるだけでも、いや、まばたきするだけでも、あの日の光景が蘇る。新年始まったばかりの1日を、フェイヴァリット・アーティストと同じ場所で、同じ時間の流れを感じながら過ごせるなんて。これを幸せといわずに何というのだ。

【フォトギャラリー】ライブイベント等の写真はこちら

 赤坂BLITZに入ると、まず視界に飛び込んできたのは天井からぶら下がった7枚(と数えるのか?)の巨大掛け軸。「ひょっとしたらこれを突き破ってメンバーが登場するのだろうか」と思いながら、開演を待つ。整理番号が思いのほかよかったので、けっこう前のエリアで見ることができたのも嬉しかった。このグループのファンは基本的に礼儀正しい。割り込みや力に訴える場面に遭遇したことはないし、「特定のメンバーが前に来たら、そのメンバーを推しているファンが見えやすいようにしてあげる」という文化まである。素敵じゃないか。
 と思っているうちに場内が暗くなり、「アプガ第二章(仮) 2014年元日決戦 ~赤坂BLITZ~」が始まった。アップアップガールズ(仮)、2014年第1回目のライヴだ。メンバーは掛け軸を突き破ることなく、ごく普通にステージのソデから登場した。しかし衣装はいつもの戦闘服ではなく“巫女さん”だ。しかし胸のところにはちゃんと(仮)の文字がある。歌うは、この日限定のおめでたいナンバー「アプオメっ!! ~アプガの正月だょ 全員集合!~」。堂々と真正面からイロモノ道をいくところが実にかっこいい。実力があるからこそ、こういう路線も見事にキマる。「アプガがいれば、門松も鏡もちも何もいらねえ」と、ぼくは思った。

 つづいてメンバーの書き初めコーナーに。新井愛瞳は「女子力」、森咲樹は「報恩謝徳」、佐藤綾乃は「日進月歩」、仙石みなみは「中野」、関根梓は「伸び.」、佐保明梨は「超人」、古川小夏は「愛」を、特大の半紙にぶちまけた。ぼくは不勉強にして「報恩謝徳」というフレーズを、ここで初めて知った。家に帰って調べたところ、この言葉は親鸞聖人の教えから来ているらしい、ということが見えてきた。
 親鸞の名をきくと、わが頭の回路はそのまま「スーダラ節」に直結する。青島幸男の書いた無責任な歌詞に困惑した植木等が、その歌詞を僧侶である父親に見せたところ、「これは親鸞聖人の教えではないか。“わかっちゃいるけどやめられない”こそ真の人間の姿なり」と逆に励まされたという話だ。森ティが「スーダラ節」を聴いてくれたら、アプガがまるごと映画に出て佐保明梨が「大冒険」(クレイジーキャッツ結成10周年記念作品)ばりのアクションをぶちかましてくれたら、と妄想は広がるばかりだ。
 仙石みなみの書いた「中野」は、アプガの当面の目標が中野サンプラザ単独公演の開催であることを示す。もちろん、この日のメンバーも我々ファンも、「2月2日、AKIBAカルチャーズ劇場のライヴ中に中野サンプラザ単独公演決定が正式にアナウンスされる」ことなど知るよしもない。

 中盤に入ると「祝」と書かれた樽を“鏡開き”し、中に入っている水を枡にすくって豪快に水分補給。歌の合間には、さわやか五郎の司会進行による「大喜利」も行なわれた。「セカンドアルバムが2月19日に発売される」と告知されたのも、考えてみればこのときが初めてだった。「今日からたった6週間前のことなのに、なんという時の流れの速さだろう」と、ぼくはいま、発売されたばかりの『セカンドアルバム(仮)』を聴きながら驚いている。

 1月13日はTFMホールで、今年初の定期公演が行なわれた。順に「定期公演62回~ 佐藤綾乃誕生日スペシャル~」、「定期公演63回 ~年末年始アフター公演~」、「定期公演64回 ~森咲樹成人式スペシャル~」。佐藤綾乃は1月7日で満19歳になった。ぼくは昨年の生誕祭も見ているが、この1年間の彼女の躍進には本当に目を見張らされた。やることなすことに思い切りのよさが感じられて、とにかくファンを爽快な気分にさせる。アンコールではアプガの隠れ名曲のひとつである《Rainbow》を、アコースティック・ギターの弾き語り、しかもひとりで聴かせてくれた。ぼくは終演後そのまま近所のコーヒー屋にダッシュしてツイートした。以下、その文章。

 佐藤さんのギター弾き語りが染みた。ピックアップも何もついていないアコギで、しかも指弾き。たまにウェス・モンザエモンばりに親指だけで弾くパートもあり、素朴な響きが心地よかった。ぼくはFが押さえられず挫折したクチなので、すごいなあと思った。次は新井さんのトランペットを聞けたらなあ。

 さらに輪をかけて美しかったのがメンバーの反応だ。熱演を終えた佐藤のまわりに皆が自然に集まってきて、「良かったよー」、「すごいねー」とごく自然に笑顔で声をかける。この暖かさ、なごやかさ。ほんわかとした愛のある光景、といえばいいか。アプガの皆さんは恐らく幼い頃からいろんなひとの愛を浴びてすくすくと育ってきたのだろう。ぼくは音楽に携わる仕事を10代の頃から25年も飽きずにやっているが、場数を重ねるごとに「音は人なり」であるという思いは強まるばかりだ。素直で、屈託がなく、明るくて、率直なアプガだからこそ、「激しく」「攻め攻め」「戦闘的」な曲調を持つナンバーであっても常にハートフルに響くのである。いったいどこまで夢中にさせるつもりなのだろう。好きすぎて発狂してしまうファンが出るのも時間の問題ではないか。

 この公演を完遂したアプガは、続いて台湾に向かった。「KAWAII POP FES by@JAM in台湾」参加のためだ。場所は台北、「河岸留言(Riverside Live House)」。地下鉄西門駅の1番出口を出て徒歩5分ぐらいで着く。レンガ造りの巨大な建物の一角にあるのだが、このあたり、かつてはRed Light District(あえて日本語では書かない)だったそうだ。今は、日本でいうと原宿や渋谷みたいな“若者の街”、“ファッションの街”である。まわりにいる犬や猫の姿を見ながら会場に向かうのもまた、オツなものだ。
 とんでもなく広い店内にはバー・スペースもあるのだが、今回、そこは閉鎖されて控え室にあてられた。壁にはマイルス・デイヴィス『ビッチェズ・ブリュー』やウェザー・リポート『8:30』、ウェス・モンゴメリー『トリオ』などのレコード・ジャケットが拡大されて貼り付けられている。ジャズの名盤を背景に、いくつものアイドル・グループが発声練習をしたり振り付けの確認をする様子は実に興味深いものであった(こんど東京女子流の新リーダーになる庄司芽生は、『ビッチェズ・ブリュー』のジャケットに関心を示していた。ぜひ中身も聴いてもらえたらと願う)。

 アプガは17日の記者会見に参加した後、19日に日本からツアーを組んでやってきたファン限定の公演、そして一般公演を続けて行なった。また18日はファンと観光に出た。それゆえか翌19日の限定公演は実に気のおけない雰囲気にあふれていた。日本からはるばるやってきた精鋭ファン(皆、メンバーから認知されているはずだ)の目の前で、「修学旅行みたい」といいながら歌い、踊り、話しかけるアプガ。このときは誰もが年齢の差を越えて、同じ学年の同じクラスに所属しているような気持ちになったのではなかろうか。
 もちろん一般公演でも、アプガは乗りに乗りまくった。台湾だけではなく、香港から訪れたファンもいたようだが、中国語によるMCも含め、全部の瞬間がオーディエンスには愛しく感じられたはずだ。フェス全体に関するレポートは「ステレオサウンド」、「MTV81」(英文)の各ウェブサイトをご参照願いたい。

 と書いているうちに、またしても『セカンドアルバム(仮)』を聴きたくなってきた。今度は一切キーボードにさわらずに、電話や宅急便にも出ずに、ただひたすら目を閉じて音楽に没頭しよう。何度聴いても新しい歓びをもたらしてくれる、それがアプガ・ソングであり、アプガ・サウンドなのだから。[次回3/24(月)更新予定]