立川談志に入門し、20年の修業期間を経て真打になった落語家が、師匠との蜜月時代から葛藤と確執を経て和解し、談志落語が体に沁み込むまでの月日を語りつくした。
 入門したてのころは師匠と銭湯に行き、前座仲間と3人がかりで背中を流したり、玄関の床に坐らされ、師匠が野菜を炒める音に負けないよう稽古させられたりした。だが、次第に疑問を覚える。あるときは月々の上納金を滞納した罰として、未納分の倍の金額をまとめて払わされた。二ツ目昇進の際には、昇進料の外に50万円を担保として預けさせられたが、未だに返してもらえずにいる。借金で工面したが、真打への昇進をかけた公演では大勢のファンの面前で2度も駄目出しをされ、もう客の前ではやるなと言われた。何度も師匠と刺し違えようかと思ったという。
 師匠の人間的な弱さを、清濁併せ持つ世の中の常として、あるいは人間の本質として呑みこみ、すべてを芸に昇華させる姿を、著者は兄弟子・志の輔に見る。とことん悩み、人間の業の肯定という談志の教えに向き合った半生には、落語の神髄がある。

週刊朝日 2014年2月28日号

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