『シルヴァー&ゴールド』から『ロード・ロック』、『アー・ユー・パッショネイト?』へとつながる一連のプロジェクトを終えたニール・ヤングは、2002年の夏、ふたたびクレイジー・ホースと合流し、新作のレコーディングを開始している。ただしこのときは、ギターは一人だけの編成をとり、ほぼライヴに近いシンプルな形で仕上げることにニールがこだわったため、フランク・サンペドロは参加しなかった(彼としてみれば複雑な想いだったとは思うが、作品のコンセプトを聞いて納得したらしい)。その成果が、翌年秋発表の『グリーンデイル』だ。
スタジオに入った時点では、クレイジー・ホースと出会ったころの感触を取り戻すことと、なんらかの形でヴィジュアル的要素を打ち出すこと以外はなにも決めていなかったそうだが、セッションを重ねるうち、アルバム全体がストーリーを形成するようになっていった。
一つの曲が完成すると、そのなかから新しいキャラクターが生まれ、それがまた次の曲にインスピレイションを与えていく。そのようにして、パシフィック・コースト・ハイウェイ沿いのスモールタウン、グリーンデイルを舞台にした物語が完成した。社会の腐敗や環境破壊などをテーマとしながら、次の世代に希望を託す、ニール・ヤングらしい物語だ。無駄を削ぎ落としたリアルな音に乗って、その物語とメッセージが、聴く者に力強く伝わってくる。
発表直後の11月10日からニールは3度目のジャパン・ツアーを行なっているのだが、そこでは、まず『グリーンデイル』を全曲、順番もそのままに演奏するという徹底ぶりだった。開演直後は戸惑っていたオーディエンスがだんだんと引き込まれていく様子が、今もしっかりと記憶に残っている。
その来日公演の前に彼は、『グリーンデイル』の映画版を完成させていた。ジム・ジャームッシュの助言を得たものの、プロの役者や映画製作者には頼らず、自ら古い8mmフィルム・カメラで撮影を担当したという、これもまた、いかにもニールらしい作品だ。さらには本も編集するなど、このプロジェクトへの取り組みは、呆れてしまうほど精力的なものだった。[次回2/10(月)更新予定]