歴史教科書というと、とかく問題になるのは慰安婦や沖縄戦など「歴史認識」の問題である。右派が「自虐史観」と呼んで攻撃する論争の対象は地区ごとに採択される中学校の教科書で、高校の教科書が俎上にのることはめったにない。
倉山満『常識から疑え! 山川日本史』は、高校の日本史で最大のシェアを誇る山川出版社の教科書をクサした本である。お世辞にもお上品な本ではない。が、序章を読んだだけで年来の疑問が解けてしまった。
〈一、教科書の編纂者は、とにかく文句をつけられるのがイヤ。/二、二十年前の通説を書く。/三、イデオロギーなど、どうでもいい。/四、書いている本人も何を言っているのかわかっていない。/五、下手をすれば書いていることを信じていない。/六、でも、プライドが高い権威主義的記述をする。/七、そして、何を言っているのかさっぱりわからない〉。以上、本書がいう「歴史教科書を読み解く七つの法則」。
どうりで! 私も高校では山川の教科書で勉強しましたよ。『もういちど読む山川日本史』も買いました。しかし役に立ったためしはない。普通の読解力で理解できるレベルの日本語ではないからだ。というより、これは史観の問題かな。歴史教科書には史観がないのだ。
英米韓の教科書を例にとり、〈疑わしきは自国に有利に〉〈やってもいない悪いことを謝るな〉〈本当にやった悪いことはなおさら自己正当化せよ〉と主張する著者。すごいこと言うなあとは思いつつ、それでも〈世界史の視点を欠いた無味乾燥、理解困難な事実の列挙〉のせいで〈日本人は最低限の教養さえ身につけることができなくなっています〉という事実は認めざるを得ない。
本書は上巻で3月には下巻も発売予定という。私の立場は著者と正反対だと思うけど、ここを踏まえなければ何もはじまらないと思った次第。問題は〈思想の「左右」ではないのです〉〈山川日本史はアカでさえない。ただのバカなのです〉。
※週刊朝日 2014年1月31日号