昨年11月末の発売以来、品薄状態が続いているニコンの一眼レフカメラ「Nikon Df」。同社のフラッグシップ機「D4」と同じ画質を誇りながら、シャッター速度や絞り設定などにメカニカルダイヤルを配したクラシカルなデザインが特徴的で、これまでのカメラの開発競争の流れとは一線を画す高品位なカメラとして話題になっている。
そのDfの魅力を深堀するガイドブックが、アサヒカメラ特別編集『Nikon Dfの哲学』だ。本書ではDfの詳細な試用リポートに加え、開発者インタビュー、写真家のレビュー、そしてDfに至るまでのニコンのカメラの歴史まで網羅している
まず注目したいのは、著名な写真家3人がニコンDfを使って撮り下ろしした「Special shots by Nikon Df」だ。東京の下町や臨海部の風景をとらえたスナップ写真でおなじみ、大西みつぐさんの作品は「浦安快晴」。山本周五郎の『青べか物語』の舞台となった千葉県浦安市の旧市街に出かけ、昔ながらのほのぼのとした情景を描いている。
JR上越線の蒸気機関車を撮影したのは鉄道写真家の櫻井寛さん。白煙を上げて激走する車両の力感と晩秋の紅葉の見事なコントラストを表現。広告写真で名高い茂手木秀行さんは、秋の小径を散歩する女性モデルのポートレートを撮影。季節と女性の柔らかさを余すところなく表現している。
読み物もボリューム感たっぷりだ。特集「レンズを堪能する」では、1968年発売のニッコールオートUD20mmF3.5から最新のレンズまで計14本との組み合わせを検証。豊富な作例とともに、「撮り味」をリポートしている。
このほか、映像カンパニー後藤研究室長の後藤哲朗さんら開発首脳陣が語る"開発の裏話"や、赤城耕一さん、飯田鉄さん、田中長徳さんによる「ニコン派鼎談」、Dfを製造する仙台ニコンの工場ルポなど、読みどころ満載だ。特に開発をめぐる経緯については、先の東日本大震災との関連もあり、開発者や製造者が「Made in Japan」のDfにどんな思いを込めたのかが描かれていて興味深い。
そしてやはり「哲学」と題しただけあって、巻頭の赤城耕一さんの評論にも注目したい。
<最新のデジタルカメラが登場するたびに、やれ画素数がいくつで、コマ速度がどうのと常に大騒ぎしている私たちに、カメラの本質とは、操作する楽しみは何かをいま一度考えさせる大きなきっかけになったことは確かであろう>(巻頭「Nikon Dfの存在意義」から)
カメラとは何か? そもそも日本の「ものづくり」とは何なのか? そんなことに思いを馳せながら、この一冊を眺めてみるのもいいかもしれない。