『No End』Keith Jarrett
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 来月、『キース・ジャレットの頭のなか』(シンコーミュージック・エンタテイメント)という本を出すのですが、その本の最後のほうにこう書きました。

 キース・ジャレットはどこに向かっているのか。年齢的(現時点で68歳)なことを考慮すれば、長期ツアーは減少し、それによって新作の録音も断続的なものになっていかざるをえないだろう。一部では、高齢を理由に、スタンダーズが解散もしくは活動が縮小されることも伝えられている。
 想像にすぎないが、今後は膨大な未発表演奏が継続的に公表されていくのではないだろうか。ヨーロピアン・カルテットの『スリーパー』やスタンダーズの時間軸を無視したかのようなアルバム化は、そうしたことの前触れに思える。つまりキースの内部では、(あくまでも内容によるとはいえ)過去の音源を公表することに対する拒否感が消え、過去と現在そしてあるいは近未来をも同一視するような視点が芽生えているのではないか。(抜粋)

 これを書いた時点では、ただそのように感じていただけですが、驚きました、数日後、『ノー・エンド』という未発表音源が発売されるというニュースが届いたのです。こういうことって、たまにあるんですよね。
 もっと驚いたのは、『ノー・エンド』の内容です。キースがエレクトリック・ギターやベースやドラムスを一人で器用にこなし、オーヴァーダビングによって自力でつくり上げたのです。
 ここで多くの人は、『レストレーション・ルーイン』や『スピリッツ』といった過去のワンマン・ソロ・アルバムを思い起こすでしょうが、それら2枚はたんなる「ヘンなレコード」でした。しかし今回は質がちがいます。クオリティが高いといいましょうか。そしてこれはもう「エレクトリック・キースの全貌ついに現る」といってもいいでしょう。まさしくマイルス・デイヴィス時代や『ゲイリー・バートン&キース・ジャレット』時代のキースが帰ってきた、そんな実感が湧きます。
 同時に『ヨーロピアン・コンサート』も完全版として初CD化されました。これまではどういうわけかブレーメン公演しかCD化されていませんでしたが、ついにミュンヘン公演も登場というわけです。しかし、まずは『ノー・エンド』を聴いてほしい。ぼくたちがキースのことをほとんど知らなかったことがわかります。[次回更新12月9日(月)予定]

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