『ディス・イヤーズ・モデル(デラックス・エディション)』エルヴィス・コステロ
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『ザ・リヴァー・イン・リヴァース』エルヴィス・コステロ&アラン・トゥーサン
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『ワイズ・アップ・ゴースト』エルヴィス・コステロ&ザ・ルーツ 最新作
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参考『レッド~40周年記念エディション』キング・クリムゾン [CD+DVD-Audio]
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参考『危機』イエス [Hybrid SACD]
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 前回からのつづき。どの音源がいい音なのか?

 SACD(スーパー・オーディオCD)やDVD-Audioといっても、世間でご存知の方がどれくらいいるのだろうか?わたしの友人で、音楽マニアをのぞいてしまったら、知っている人は、かなり少ないと思う。
 つまり、マニア向けの商品というところだろうか。

 今でも、音楽メディアの中心がCDだということが、CDよりハイスペックな音源がそれほど必要とされていないという証なのだろうか?
 一方、インターネットを使った音楽配信も増えてきた。その中で、CDよりハイスペックな音源の配信もはじまり、それらをハイレゾ音源と呼ぶようだ。
 もちろんデータだけで音楽を聴けるわけではなく、それなりのシステムが必要となる。
 ネット配信について書き始めると、また複雑になりそうなので、SACDとDVD-Audioについて、最近気づいたことを書いてみたい。

 その前に、わたしのオーディオ遍歴について簡単に紹介しておこう。
 ただ、基本的に、オーディオ機器の型番や商品名は、特に書くつもりはない。
 オーディオ・マニアが、これらの情報を知りたいことは、自分も含め、わかっているつもりだが、それは、別の機会にする。

 わたしの最初の音楽再生機器は、家庭用のオレンジ色の電蓄だった。17cmシングルと呼ばれるシングル・レコードが乗るくらいの大きさのターンテーブルで、もちろん、30cmLPもかけられるが、プレーヤーから、レコードがはみ出して乗せることになる。プレーヤーには7cmくらいのスピーカーが一つついていて、そこから音がでるのだ。
 この電蓄は、小学校の時に買ってもらい、中学3年生まで、それを使って聴いていた。
 だから、初めて買ったロックのレコード『レッド・ツェッペリンIII』もそのあとに買ったピンク・フロイドの『原子心母』も、最初はこのプレーヤーで聴いた。

 とうぜん、物足りなくなって工夫をはじめた。といっても、お金がないので、新しいステレオを買うわけにはいかない。どこからか、大きな木の箱を見つけてきて、その中にそのプレーヤーを入れ、箱の中で音を反響させ、ボリュームをできるだけ大きくし、《移民の歌》を聴いたものだ。これが、わたしの少しでもよい音、いや、気持ちのよい音で音楽を聴きたいという探求のはじまりのような気がする。

 学生のころからこのような状況だったので、ステレオを買ってもらった後でも、いろいろと工夫と努力をした。スピーカーを建築用のブロックの上に乗せるなどはもちろんだ。これらの遍歴については、また別の機会に話そう。

 このころ気になっていたのは、4チャンネルだ。60年代後半から70年代のはじまるころだ。
 音楽やオーディオの世界が、モノラルからステレオに進化(と言っておこう)したのは、みなさんもご存じだろう。しかし、音は、前からだけではなく、後ろからも聞こえる。もっと言えば、上から下へ動く音も、人間は察知できる能力がある。だから、後ろにスピーカーを置いて、その真ん中に座り、四方から出る音を聴くというのは、素晴らしいことに思えたのだ。

 ことわっておくが、今のサラウンドとは違う。現在の5.1サラウンドと呼ばれるものは、基本、スピーカーを聴く人の前後左右に各2台の4台。加えてセンター1台、低音用のサブ・ウーファー1台の計6台を設置して使用する。DVDの中には、それぞれのスピーカー用に音データがあり、それぞれ再生される。特に低音域用は再生音域が狭いため0.1chとカウントする。
 そうすることにより、映画などの中で、ヘリコプターが近づいてきて遠ざかる音や、台所で後ろでお皿を落として割れる音が、リアルに聞こえることとなる。

 それに対し、当時の4chサラウンドは、2chステレオで録音されたレコードのデータを電気的に4ch化し、前後左右に設置したスピーカーで聴くというものだった。
 わたしの持っているサンタナの『天の守護人』やマイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』などが、その4ch盤だが、当時は、普通に販売されていた。いや、それしかなかったと思うのだが。
 友人の家にその4chを再生できるステレオがあったのだけれど、その効果は、確認できなかった記憶がある。その友人のステレオがビクターのものであり、わたしの持っていたサンタナなどは、CBSソニーのレコードなので、その再生の仕組み自体が異なるためであったかもしれない。再生には、デコーダーという機械が必要で、それらが、メーカーによって違っていたのだ。もっとも、2chステレオで聴いても、全く問題があるわけではない。
 しかし、後ろから音が聞こえるという発想には、心惹かれるものがあった。
 それらと同時期に、4つのスピーカーの結線を変えることによって、サラウンドのような効果があるという記事を読んだ。もちろん、実行した。効果については、正直、よくわからなかったが、四方から音がでるということで、迫力が増したような気になっていた。
 その後、サラウンドは、DVDが発売され、音や映像がデジタル化することになって、やっと定着してきたように思う。とはいえ、わたしの親戚で、サラウンドで映画や音楽を楽しんでいるという家はないので、一般家庭から見れば、少数派になるのであろうか。

 わたしのオーディオ遍歴のごく一部を紹介させていただいたのは、SACDやDVD-Audioについて語るときに、サラウンドを外すことができないと思ったからだ。
 わたしは、仕事柄か、自宅と事務所の二か所にオーディオ・セットを装備している。そして、事務所の方を、サラウンドのシステムにしている。
 そのため、かなり早い時期からAVアンプを導入している。そして、DVDのほかに、SACDやDVD-Audioも再生できるようにしてきた。
 しかし、導入当初は、SACDやDVD-Audioのハイレゾ音源は、アナログでしか出力できなかったのだ。だから、AVアンプにも、サラウンドのアナログ入力の装備したものでなければならなかった。ちょっと、難しくなってきたかな。つまり、5.1chのハイレゾ音源を再生するためには、6本のケーブルでつなぐ必要があった。

 簡単にいうと、ブルーレイ・ディスクやハイ・ビジョン・テレビの出現に応じて、HDMIという規格ができて、これまで、5.1chなら、6本のケーブルでつなげなければならなかった配線が、1本のケーブルで、マルチチャンネルの音声を出せるようになったのだ。
 すべての機種で可能とは限らないが、機種を選べば、複雑な配線なしに、ハイレゾのマルチチャンネル・サラウンドが楽しめる。もちろん、2chステレオのハイレゾ音源も聴くことができる。

 話が、サラウンドよりになってしまった。サラウンドには、ステレオにはない、音的面白さがあると言っておこう。

 では、同じステレオでは、どれくらいちがうのか?
 目安としてそれぞれのメディアが持つ容量を書いておく。
 SACD 4.7GB、DVD-Audio 4.7GB。CD 780MBと比べると、情報量の限界の大きさがわかる。ちなみに、ブルーレイ・ディスクは、25GBと50GBがある。映像に使われる部分もあるが、多くのデータ量を扱える。

 扱えるデータの違いはわかったが、実際の音はどうなのか?
 わたしが実際に聴いたSACDやDVD-Audioの枚数は、100枚程度に過ぎない。その範囲でいうことになる。
 実は、これらの音源、初めて聴くものは少ない。つまり、ある例を出せば、国内盤のLPを持っているにもかかわらず、米国盤や英国盤のLPも買い、CDがでれば、それも買う。そのCDもリマスター盤が出たといっては、買い換える。そのうえでのSACDやDVD-Audioというのが多い。書いていて、オタクとか、マニアとか言われても仕方ないかなと思う。こんな人もいるのだと思ってください。

 そんな、聴き方をしているわたしの意見は、SACDやDVD-Audioには、CDより気持ちのよい音のものが多い。特に、サラウンドは、わたしにとっては楽しみだ。
 しかし、すべてがよいわけではない。SACDより、中古で300円で買った国内盤のレコードのほうが、ふくよかで気持ちのよい音がするものもある。
 つまり、あるものは、SACDの音が気持ちよく、あるものはレコードの音が気持ちよい。そして、CDが一番、気持ちよく聴けるというものもある。

 結論は、一概に、どのメディアが気持ちよい音を出せるかとは言えない、ということだ。確率的には、データ量の多い方が有利だろう。また、アナログの場合は、演奏者やスタッフが、自分たちで聴いて、OKを出している、オリジナル盤が有利ということになるだろう。さんざん書いてきて申し訳ないが、どのメディアの音がよいかというのは、アルバムによって異なるということだろうか。聴いてみなければ、わからない。
 今後、購入するときの参考になるだろうか?なれば、幸いである。

 コステロに入る前にニュースをひとつ。
 Amazonがアナログレコードについて面白いデータを公開した。デジタルダウンロードや音楽ストリーミングが普及する中、Amazon.co.ukでのアナログレコードの売上は、2008年以来745%増加しているという。これも、参考にしてほしい。

 さて、エルビス・コステロ。
 わたしにとって、コステロの最初のイメージは、『ディス・イヤーズ・モデル』のジャケットだ。わたしもほしかったが、手を出せなかったハッセル・ブラッドを三脚にのせ、ポーズをとっている。ジャケット写真を撮られているはずのコステロが、逆に、ジャケットを見ている人たちを撮影してしまう、ということなのだろうか。あるいは、ジャケット写真を撮影しているカメラマンをコステロが演じているということなのだろうか。複雑な性格を思わせるジャケットだ。
 その次の思い出は、1978年。コステロは、初来日した。その際、チケットが売れていないと聞いて、日本の学生服を着て、銀座のど真ん中をトラックの荷台で演奏しながら走り抜けたという。それは、伝説のように語られているが、わたしは、その光景を銀座四丁目の交差点で実際に見ていた。警察に止められ、たった数分間の出来事だったというが、わたしは見た。めぐりあわせだ。
 デビュー当初、パンクの風が吹き荒れていたため、パンクのイメージが強いが、その後、ポール・マッカートニーやバート・バカラックと共演したり、弦楽四重奏団といっしょに音楽を創ったりという彼の音楽人生を見ていくと、簡単にパンクという一言ではくくれない。
 また、数回前に紹介した、アラン・トゥーサンといっしょに作った『ザ・リヴァー・イン・リヴァース』も味のあるいいアルバムだ。

 さて、そんな彼の今回の来日は、“Spinning Wheel Tour”と言っている。
 ステージ上にコステロの曲名が何十曲と書かれているどデカいルーレットを置き、勢いよくルーレットを回す。当たった曲をすぐさま演奏するのだという。
 ルーレットを回すのは、お客さん達の中から選ばれた当選者だとか。
 やっぱり、複雑な人だ、と、わたしは思う。[次回10/16(水)更新予定]

■公演情報は、こちら
http://www.smash-jpn.com/live/?id=2011