経済小説を手がけてきた著者が初めて、悩める個人として対極にある二人の裁判官の半生を小説にした。司法界のドンに見込まれ、最高裁事務総局の出世街道を行く津崎と、全国各地の地方裁判所の支部を転々とする村木。この二人を軸に、自衛隊訴訟や公害訴訟、原発訴訟など、国を相手どった訴訟と裁判所内部の意識の変遷を描く。
 村木が出世コースを外れ、冷遇されるのは、左派の青年法律家協会に籍を置いていたからだ。不当人事に映ったそれは、憲法よりも戦後の経済復興を優先させたい自民党から圧力がかかっていたためと、後に最高裁長官を退いた「ドン」が示唆する。津崎もまた、組織の一員として国家権力の弁護を担う。だが村木は金沢地裁にいたとき、原発訴訟の現場で緻密な審理を重ね、日本で初めて、稼働中の原発の運転差し止めを言い渡す。
 訴訟の争点を丹念に書き込んでいる。「ドン」は、「ミスター司法行政」の異名をもつ実在の人物がモデルと見られ、村木判事もモデルを想像できる。長官の椅子をめぐるどんでん返しが凄まじい。

週刊朝日 2013年10月11日号

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