中学1年のとき父親に買ってもらったニコンFM2。中学・高校では写真部に所属、よく街に出て撮影し、学校の暗室で現像していた。写真を撮ろうと思うと光と影のコントラストを注視したり、ものの見方が細かくなるので面白かったという。FM2は以降も使い続け、世界7大陸最高峰登頂も記録しているが故障したことはない
中学1年のとき父親に買ってもらったニコンFM2。中学・高校では写真部に所属、よく街に出て撮影し、学校の暗室で現像していた。写真を撮ろうと思うと光と影のコントラストを注視したり、ものの見方が細かくなるので面白かったという。FM2は以降も使い続け、世界7大陸最高峰登頂も記録しているが故障したことはない
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中学時代、父の勤務地イエメンで撮影。いきなりでは警戒されるのでニコッと微笑んで徐々に近づき、二言三言話してそれから撮る。カメラを通した人との出会いが楽しかったという
中学時代、父の勤務地イエメンで撮影。いきなりでは警戒されるのでニコッと微笑んで徐々に近づき、二言三言話してそれから撮る。カメラを通した人との出会いが楽しかったという
1999年、3年連続となる3度目のエベレスト(8848メートル)挑戦の途中でとらえたヒマラヤの山並み。5月13日に登頂を果たし、当時の世界7大陸最高峰最年少登頂記録(25歳)を樹立した
1999年、3年連続となる3度目のエベレスト(8848メートル)挑戦の途中でとらえたヒマラヤの山並み。5月13日に登頂を果たし、当時の世界7大陸最高峰最年少登頂記録(25歳)を樹立した
植村直己さんの著書に感動し、登山を始めた16歳でヨーロッパ最高峰のモンブラン(4807メートル)に登頂した。1990年12月、17歳でアフリカ最高峰のキリマンジャロ(5895メートル)も制覇。その登頂途中に撮影した雲海から昇る朝日
植村直己さんの著書に感動し、登山を始めた16歳でヨーロッパ最高峰のモンブラン(4807メートル)に登頂した。1990年12月、17歳でアフリカ最高峰のキリマンジャロ(5895メートル)も制覇。その登頂途中に撮影した雲海から昇る朝日

――なぜカメラを

 中学1年のとき、写真部に入ろうと思ったんです。イギリスの全寮制の中学にいたんですが、落ちこぼれでしたからね。親父も心配していました。いろいろ調べたら、当時出たばかりのニコンFM2がいい。だけどレンズをつけると15万円くらいする。どうやって親父を口説くか。言うタイミングをねらっていたんです。ある日、親父が酔っぱらって帰ってきたとき、これではまだ足りないだろうとさらに1本ワインを開け完全にへべれけにさせて、「じつはお願いがあってね」と切り出した(笑)。「たしかにぼくは勉強はできない。だから一つ、やりたいことを見つけた。それは写真で、どうしてもほしいカメラがあるんだ」と。親父は酔っぱらっているから「いいじゃないか、買え、買え」って言うんです(笑)。気が変わらないうちにとすぐ日本にいる兄貴に電話して代わったら、「買ってやれ」と言っている。それで兄貴が買って送ってくれた。あとで親父は「こんなの知らん」と言ってましたけど。(笑)

 そのニコンFM2を使って、今日まで来ています。7大陸最高峰登頂も一緒であちこち傷だらけになりましたけど、20年以上、1回も壊れたことがない。寒さに強く、電池が落ちてもシャッターが切れる。マニュアルはいいですよ。ザックにボーンと投げたり、気を使わないですむ。それに今まで事故がなかったから、お守り的な要素もあるんです。遺体があったり雪崩が発生するとか一瞬パニクリそうなとき、カメラを出してファインダーから見ると第三者的になり、落ち着くんです。FM2と15歳のとき初めて買った初心者用のピッケル。この二つはずっと使っています。事故がないし、初めて山に登ったときの新鮮な気持ちに戻れるんです。

――デジカメは?

 キヤノンEOS5DやKissデジタル、それにパナソニックのルミックスTZ3がいい。ワイドが撮れ、液晶がきれいです。今回のエベレスト登頂(5月15日)では胸に入れていました。デジカメはその場で確認でき、6000メートルからでもパソコンで送信できます。山頂の写真がすぐ新聞に載っけられるわけです。あと夜テントの中で不安なときとかに、デジカメでいっぱい撮ったのを見ているとスライドみたいに楽しめるじゃないですか。それにチベット人に見せると会話も弾む。でもデジカメはいくらでも作れるから、人の写真見て、どこまで本当の色かなとか思うときがあります。考えてみるとつまんないんですね。撮る楽しみは半減しました。

 山頂で写真を撮るのは快感ですよ。登頂の証拠写真とそこからの景色。ただ余裕がない。ゴーグルで視野が狭く酸欠の影響でかなり脳がやられてますから、帰ってきてこういう風景だったんだとわかることもあります。

――エベレストの放置ゴミも写真で見せたから、反響が大きかったんじゃないですか

 山の関係者からはだいぶ叱られました(笑)。全国で写真展をしていますが、みんな最初は驚く。世界最高峰で神秘的なところがゴミにまみれている。話には聞いていたけど、本当だったんだと。写真って証拠ですから。口では限界があるんですよ。九十九里だと驚かないけど、エベレストだと驚く。世界でもっとも環境の厳しいところですら汚ないってことは、下りてくるともっと汚いわけです。そして帰国したら、日本の最高峰(富士山)はさらに汚かった。それは単に日本の登山家のマナーが悪いのか、国民性なのか。ある意味、日本社会の縮図かもしれない。だから訴えていかなくてはいけないと思っています。そこから、いろんなものが見えてくるんです。山がきれいなところは街もきれいです。スイスはきれいですよ。

※このインタビューは「アサヒカメラ 2007年10月号」に掲載されたものです

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