



――カメラはいつから?
4年前、プライベート旅行で行ったモロッコで写真に目覚めたんです。空気感が非現実的で、空が今まで見たことのない色をしていて……夢中でシャッターを切っていました。どこを撮っても「いい!」って思える。たった一泊の滞在でしたが、あのモロッコの空が写真にはまったきっかけですね。当時のカメラは、オリンパスのコンパクトデジカメ。周囲に見せたら思いのほかほめられて、すっかりその気になって(笑)、「よし、本格的にやろう」とすぐデジタル一眼レフを買いに行きました。当時、出たばかりのEOS Kiss Digitalです。
そして去年、解像度が物足りなくなったのでEOS5Dに買い替えました。すぐに技術が進化して、画素数は1000万が当たり前になっていました。もともと機械が大好きなので、そうなるといいのがほしくなるんです。そしてホームページに載せていた写真をきっかけに「本を出しましょう」とお話をいただいたので画素数の多い5Dに替えました。今年は2冊目になるはがきサイズの写真集を出しました。
――なぜはがきサイズに?
表書きに、撮影したときの印象を短い言葉にして入れています。それを見た人が自分のメッセージも加えて誰かに送り、さらにたくさんの人に伝わっていったら楽しいかなと。僕はプロの写真家ではないので、特別な技術もありません。それに、いざ出来上がった写真を見てみると、改めてそのときの気持ちを確認する写真でもあることに気づいたので、今回の写真集のタイトルを「写心家 金子貴俊」にしました。僕にとって、写真は仕事とはまったく別の場所にあるものです。ふと「最近、自分が曇ってきたな」と思ったら、カメラを持って出かけます。目的もなく歩いているうちに偶然、心を動かしてくれるものに出会うのが楽しいし、宝くじに当たったようでワクワクします。
――ライカM6はいつから?
つい最近です。今年の5月、そろそろフィルムもやってみようかなとほとんど衝動買いです(笑)。仕事先の名古屋で、たまたま2時間空いたので大型カメラ店に入って、店員さんに「ライカのどこがいいのか」っていろいろ聞いているうちに、すっかりカメラの魅力に洗脳されていました(笑)。
最初は、デジカメの感覚が抜けなくて大変でした。撮った後、つい癖で確認しちゃうんですよ、ありもしない液晶モニターを(笑)。「あ、ないんだ。カッコ悪ーい」って一人で焦ったりして。フィルムは、一回一回の重みが違いますね。デジタルのときは同じアングルで何度も撮っていたのに、M6はピントや露出を合わせて……と考えた末にようやくシャッターを押しています。一枚ごとに費やす時間が全然違いますね。
――EOS5DとライカM6の使い分けは?
5Dは重いので、まとまった時間のある休日や旅先限定で、がっつり撮りたいとき用です。M6はカバンに常備して、つねに撮るものを探しています。僕は多忙な日が続いたりすると心と体のバランスを取るために、意識して何も考えない、感じない時間をつくるんですが、その状態が長く続きすぎると逆に感覚が鈍ってきてしまうんです。そんなときは、カメラを持って外に出かけ、自分をもう一度真っ白にします。道端で枯れかけた花や岸に打ち上げられた魚にも強烈なメッセージを感じて、「ああ、生命をまっとうしたんだな」と心を動かされます。そういうものにレンズを向け、夢中でシャッターを押し続けていると、鈍った自分がどんどん修復されていくような気がします。
僕にとってのカメラは、心を浄化する作用があると思います。最初のころと最近の写真を見比べると、自分の心が少しずつ変わってきているのがわかります。最初は激しい感じでしたが(笑)、最近は穏やかになってきたような気がします。
※このインタビューは「アサヒカメラ 2007年9月号」に掲載されたものです