ライブ・アット・サムタイム
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ライブ・アット・サムタイム
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 1977年も前年と僅差の45人/組が来日した。引き続きバップ~ハードバップが最多で新主流派~フリーが続く。前者ではJ.J.ジョンソン&ナット・アダレイ、アート・ファーマー&ジャッキー・マクリーン(4月)、ソニー・ロリンズ(6月)、ジュニア・マンス(9月)ら14人/組が、後者ではマックス・ローチ(1月)、サム・リヴァース(3月)、「V.S.O.P.クインテット」(7月)ら8人/組が来日した。フュージョン勢力が大躍進、前年の1組からジョージ・ベンソン(4月)、「スタッフ」(4月・11月)、ブレッカー兄弟(6月)、「ジェントル・ソウツ」、ラリー・カールトン(10月)ら6人/組に急増、ブーム到来を如実に物語る。バディ・リッチ(6月)らビッグバンドは4組に、ベニー・カーター(4月)らニューオーリンズ~スウィングは3人/組に半減し、アン・バートン(4月)、アイリーン・クラール(7月)らヴォーカルはほぼ横ばいの9人/組だった。

 24人/組が34作を録音している。15人/組の23作がスタジオ録音(うち11人/組の17作が日本人と組んだリーダー作、ゲスト/サイドマン参加作)で、11人/組の11作がライヴ録音(うち5人/組の5作が日本人と組んだリーダー作、サイドマン参加作)だ。出来and/or入手難に照らしてローチの『ライヴ・イン・トーキョー』(DENON)、J.J.の『ヨコハマ・コンサート』(Pablo)、ファーマーの『コンプリート・ライヴ・イン・トーキョー1977』(Jazz on Jazz)などは見送り、バーニー・ケッセル(ギター)の『ライヴ・アット・サムタイム』(Absord)、ベニー・カーターの『ライヴ・アンド・ウェル・イン・ジャパン』(Pablo)、アイリーン・クラールの『エンジェル・アイズ』(Muzak)、V.S.O.P.クインテットの『熱狂のコロシアム』(Sony)、ジョニー・ハートマン(ヴォーカル)の『ライヴ・アット・サムタイム』(Absord)を候補作としたい。まずはケッセル盤から。

 バップ・ギターを確立した巨人、ケッセルの来日はハービー・マン・グループで訪れた1967年、「ニューポート・オールスターズ」で訪れた1969年に続く三度目だ。この度は単独行で、スタジオ録音でソロ作『バイ・マイセルフ』(Victor)、本作と同じ顔触れのトリオ作『シャイニー・ストッキング』(Lobster)、同じトリオで峰純子を支えた『ジュンコ&バーニー』(Trio)も残している。本作はソロ作、トリオ作の翌日に録音された。
 ケッセルの魅力は比類なき「黒さ」だ。「名誉黒人」の称号を与えて然るべきだろう。前期の単音奏法を主体とした歌心に富むホーンライクなスタイルも痛快だが、中期以降のファットなトーンの単音奏法とザックリしたコード奏法の巧みな案配、ねちこいフィルにブルージーなチョーキングと、よりギターライクで黒々したスタイルにこそ真価がある。ただ、倍テンポで頻繁に見せるトリッキーなパッセージだけは奇異に響いてならないが。
 ミディアム・スウィンガー《我が心のジョージア》《柳よ泣いておくれ》にはそうした魅力が溢れ、無類にグルーヴする、本作で一、二を争う快演になった。これらに次いでは心も浮き立つジャズ・ギターならではのファスト・ボッサ《イパネマの娘》、サイドにもスポットをあてた華やかなミディアム・ファスト《朝日のようにさわやかに》が快演級、奔放にたたみかけるミディアム・ファスト《バイ・バイ・ブラックバード》、ケッセルの持ち味を活かすべくローリンド・アルメイダが書いたファスト・サンバ《バーニアナ》、バラード調で始め乗りのいいミディアム・スウィンガーに転じるテンポ設定が功を奏した《星影のステラ》、たおやかなミディアム・ボッサ《恋とは何でしょう?》が好演級だ。それなのに、バッパーの弱点と言うべきか、ミディアム・バラード《愛のフィーリング》《ボディ・アンド・ソウル》は月並みなアプローチで綴った箸休めで大して面白くない。
 バラードを除いては快演と好演が半ばする。好ライヴとしては辛すぎ快ライヴとしては甘すぎるだろう。親密な雰囲気に包まれたジャズ・ギターを弾く歓びと聴く歓びに溢れる準快ライヴとしておこう。後期のケッセルを代表する一作としてお薦めする。極論すれば《我が心のジョージア》《柳よ泣いておくれ》だけを目当てに買っても損はないはずだ。リンク先では高値が付いている。あとはMP3版を落とすか中古を探すか再発を待つかだ。[次回10/21(火)更新予定]

【収録曲一覧】

1. Georgia on My Mind 2. The Girl from Ipanema 3. Feelings 4. Bye Bye Blackbird 5. Body and Soul 6. Barniana 7. Stella by Starlight 8. Willow Weep for Me 9. What Is This Thing Called Love? 10. Softly, As in a Morning Sunrise

Barney Kessel (g), Kunimitsu Inaba (b), Tetsujiro Obara (ds).

Live at Sometime / Barney Kessel (Jp-Absord [Jp-Trio])

Recorded at Sometime, Kichijoji, Tokyo, February 23, 1977.