カメラを向けると「太巻ポーズ」で応じてくれた
カメラを向けると「太巻ポーズ」で応じてくれた

 そればかりか、のんさんは私たちに地元の魅力を気づかせてくれた。北限の海女、まめぶ、琥珀(こはく)……。ここには何もないと思っていた県民の意識が変わり、地域の魅力の発掘とPRの機運が高まった。彼女の存在があってこそ、三陸鉄道を軸にした復興デザインを描くこともできた。リアス線開業時にも駆け付けてくれ、全国からファンが押しかけた。のんさんのおかげで、震災復興の節目のイベントをするたびに全国に広く知ってもらうことができ、復興への弾みがつく。関東大震災や阪神・淡路大震災で被害を受けたのは大都市だった。大都市は常に変化していく存在。震災からの復興も、街が新たに生まれ変わるフェーズの一つとも考えられる。

 一方、東日本大震災津波で被災した岩手県沿岸などは、震災前から開発途上の地。空き地や空き家があり、災害がなくても街づくりの課題は山積みだった。その点で、当地では「復興感」が持ちにくい。震災から12年たっても復興の完了を実感することはなく、いつまでも「未完成」のような状態。この未完成ぶりが、のんさんと似ている気もする。俳優、音楽、アート、映画監督などと活動の幅を広げ、未完成のまま疾走し、多くの可能性を示唆している。

 のんさんのピンチの際に岩手県が支え、今ではその支えがなくても多方面で活躍するようになった。その姿にまた、岩手県は自信をもらっている。

週刊朝日  2023年3月17日号