若手でもアイデアを出すと「面白いからやってみろよ」と言ってくれるような風土でした。堤さんからはモノではなくライフスタイルを売る生活総合産業を目指す意思が非常に伝わってきましたね。

 かつての西武は「よそが売れているからウチも……」ということは絶対にやらず、絶えず他社がやっていないことに挑戦しました。歴史がないので老舗と同じことをやっては勝てない。冒険して新しいことを提案する必要があったのです。

 お客様に「初めて」のものをどれだけ提供できるか。これはいまも変わらない百貨店の役割ですし、今後はむしろそれが強く求められる時代になっていくのではないでしょうか。

──では水野さんならどうするのか。

 様々なサブカルチャーやライフスタイルを打ち出す専門店の集積に力を入れます。現代は「必要なモノ」はいくらでもネットで買える時代ですから、まさに「欲しくなるモノ」を見つけられなければ、専門店や百貨店までわざわざ来てくれない。

 また、同じモノを売ればおのずから価格競争に陥ってしまいます。デフレが続いた日本で安いものが売れるのはわかりますが、他方では質の高い商品を求める人は確実にいます。明確な「ワケ」と「ナットク」があれば高くても買ってくれる顧客です。これは家電量販店とは完全に異なる風景です。

 さらに世界に目を向けると、欧州ではSDGsの時代に即して、人や社会、環境に配慮したエシカル消費に特化した小型百貨店が出現しています。また中国の北京にある「SKP」という小ぶりな百貨店はハイブランドに特化し、店内に最新のアートロボットなどを展示するなどアミューズメント性のある店づくりを進め、年間2千億円以上売り上げています。

 今回の売却話は、百貨店のあり方をゼロから考え直すラストチャンスだと思うのですが……。

(構成/朝日新聞経済部・末崎毅)

週刊朝日  2023年3月17日号

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