エルメスやルイ・ヴィトンといった高級ブランドは西武が他に先駆けて日本に導入したものですが、(西武池袋本店の)現在の最適な場所から、ヨドバシの都合で移動しろということになれば、かなりの軋轢(あつれき)が生じることになるでしょう。ヨドバシの名前がついている店舗にブランド品を買いに来るのかという問題もあります。
ヨドバシカメラと百貨店の混在は、私はありえないと思います。
──昨年12月には豊島区の高野之夫区長(今年2月に死去)が西武池袋本店の存続を西武鉄道の親会社の西武ホールディングスに嘆願した。池袋の文化戦略の中心が西武だとして、ヨドバシの参入により文化のまちの土壌が喪失してしまうと訴えたが……。
高野さんは池袋を文化都市にする強い思いを持っておられました。美術館をいち早くつくり、書籍や音楽の専門店も立ち上げた西武に対し、文化の担い手としての期待感があったと思います。しかし最近の西武は、そのあたりがおろそかになっていました。街に人を呼ぶには演劇や映画、食事、買い物など総合的なアートやアミューズメントが必要ですし、百貨店も画廊や展覧会、催事などにもっと注力しなければいけません。
■「初めて」のもの強く求められる
百貨店は入居するブランドのおかげで一定の客が動員できるので、自ら文化的魅力を作り上げる力が退化しています。その結果どの百貨店も差異がなくなってしまっています。その代わりブランド側が文化的発信をしています。
いまルイ・ヴィトンではアーティストの草間彌生さんとのコラボが人気です。伝統にあぐらをかくのではなく、新しい文化を先取りして進化し続けているわけです。
──かつての西武百貨店はどんな店だったのだろうか。水野さんは高校生時代に、流行し始めていたアイビールックのブランドを扱う西武百貨店に興味を持ち、通い始めたという。
大阪で産声を上げた「VAN」が、東京では池袋の西武など数カ所にしかなかったんです。西武は情報に敏感だと感じ、始終入り浸っていた思い出があります。入社後は婦人服の売り場に配属されました。