22歳の男の子とカラオケに行った。しきりにカラオケの話をしてくるので、じゃあ、と行くことになった。

 彼はいわゆるフリーターで、ブライダルパーティー会場のスタッフとして、披露宴がある時だけ働いているという。
 4月になってから、どうにも落ち着かないんだ、と彼はぼやいた。親しかった同い年の友達の多くが、大学を卒業して就職し、一緒に遊んでくれなくなったのだという。カラオケに行く相手にも困り、私を誘ったらしかった。

 君はずっとフリーターでいくの? 何か夢はあるの? と聞くと、特に夢はない、でもそろそろちゃんと働きたいから今度公務員試験を受けてる。でも合格はまず無理だと思う、と平気な顔で答える。

 あれほど行きたがっていたので相当上手なのかと思ったら、彼のカラオケは音程がズレていて、お世辞にもうまいとは言えなかった。それでも久しぶりで嬉しいのか、大きな声でリズムにノリながら、次から次へと歌い続ける。

 彼は男性アイドルの歌ばかりを選んだ。しかもカラオケには「本人映像」という歌っている歌手本人の動画が出てくる曲もあるのだけど、そればかりを狙い、歌いながら、カッコいいな~と画面に見入っている。

 私は曲の合間に、彼に質問を浴びせ続けた。彼は母子家庭で、母親は2時間ほどかかる会社に何年も通勤して彼を育ててくれたのだという。立派なお母さんじゃないの。同じシングルマザーとして尊敬する。
「お母さんには母の日に何かプレゼントするの?」
 私の問いには答えず、彼は、歌い続けた。そしてコンサート会場で汗まみれになって歌っている男性アイドルの横顔を見つめながら、ぽつんとこう言った。

「僕は自分がわからない。何もしたいことがない。好きな人もいない。もしかしたら女じゃなくて男のほうが好きなのかもしれない。この人と抱き合ってもいいなと思えるし」

 と、画面を指差す。そして私のほうを見て、ひょっとすると僕は年上の女の人が好きなのかもしれないし、と真顔で付け加えた。私はそんな彼に付き合って何時間もカラオケをして、出る頃のお会計は久しぶりに3000円を超えていた。

 昨日彼からメールが来た。公務員試験がもうすぐなので、勉強に頑張っている、という。合格の可能性は非常に低いようだけれど「がんばってね」と返事をするしかなかった。