『漂砂のうたう』で直木賞を受賞した著者の初エッセイ。一言で評するならば端正な本であり、その佇まいも美しい。白地に銀の箔文字と、鮮やかなブルーの曲線。カバーの下には、同じブルーを纏った仮フランス装。本書の端正さを体現しているかのような装丁だ。そこには日常での気づきや、編集者時代に経験した出来事などが丁寧な文章で綴られている。
 著者は、「人生の目標なるものを設定せずに生きてきた。いわば道草の連続が、今の私を形作っているとも言える」という。そのみちくさ道中で拾ったものが、文中で渋い輝きを放っているように見えるのだ。
 四十代を「往生際の悪い年頃。頑張ればやり直しがきく、ギリギリのライン」と著者は評する。そして、世間は転身をはかる人を賞賛し、現状にとどまる人を蔑みがちだが、「新たな道を切り開く美しさがあれば、一所に踏ん張るたくましさもある。そしてどちらに進んでも苦労や後悔はついてくる」と語る。
 後悔しない人生よりも、悩んで悔いてもがいて生きる姿に胸を打たれるという著者。そんな視点の数々が、心に染みる。

週刊朝日 2013年3月22日号

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