ひとりのフランス人青年が日本を訪れ、東京で半年暮らした。彼はお金はあまりないけれどヒマはたっぷりある、駆け出しのイラストレーター。毎日、自転車であちこち出かけ、目に留まったものを色鉛筆でじっくりスケッチした。こうして描きためたイラストをまとめたのが本書。ちょっととぼけたコメントを加えた絵の数々が、思いがけない角度から東京の街並みを見せてくれる。
 最初の2週間は町屋に滞在、その後は落合へ。住んでいたゲストハウス内部の様子から近所の家々、そして池袋、新宿、上野、渋谷……と、地区ごとにスケッチを集めてあるのだが、冒頭を飾るのはいつも、各地区にある交番の絵。あらためて見ると、確かに交番の建築はバラエティ豊かで面白い。居酒屋の看板や幟も、駅のホームも、立ちならぶ雑居ビルも、こちらが普段見過ごしている細部まで丁寧に写してあって、はっとする。ところどころに挟まれる人物スケッチもいい。ステレオタイプの異国趣味に囚われない素直な目が生み出した、新鮮でユーモラスな東京の姿だ。

週刊朝日 2013年2月1日号