三流のはるか下をゆく「最底辺大学」たらちね国際大学に勤めるクワコーこと桑潟幸一は、食べるためにザリガニを捕獲し、資源ゴミ回収日に雑誌を入手、ボーナスは「量販店の値札みたいな数字」の49800円だ。徹底した下流ぶりは、もの悲しさを通り越し、もはや爽快ですらある。金はなくとも知識と教養はあるのかと言えば、答えはノー。このユーモア・ミステリーにおいて、ないない尽くしのクワコーは、主人公でありながらほぼ出番なし。彼の研究室を根城にしている個性派文芸部員の面々が事件解決に向けて活躍するのだ。しかしながら、所在なさげなクワコーがいないと物語が始まらないのもまた事実。
 収録作品は「期末テストの怪」「黄色い水着の謎」のふたつ。後者は水着紛失事件をめぐるストーリーと並行して、やけに本格的な装備で海に潜り、魚介類を捕獲する「漁労部」が描かれる。そして獲物を煮込んで作るブイヤベースの旨そうなこと……。毎夏かならず漁労に勤しむという作者だから書ける漁労メシの魅力も味わって欲しい。

週刊朝日 2013年1月18日号