著者は現在49歳。1枚の絵を1週間かけて仕上げる「とびきり仕事が遅い」イラストレーターだ。「めったに稼げない」という自覚があるのに、シングルで娘を産み、山奥のボロ家を購入してしまった。
 アリからカマドウマに至る様々な昆虫の住む納屋で寝起き。冬になれば、ストーブの熱が全部逃げていき、室外仕様の格好でなければ凍えてしまう。厳しいとしか言いようがない生活環境だが、当人たちにしてみれば、都会生活の方が何倍もストレスフルだった。電車通勤に疲れ果て仕事を辞めた母、クラスの「みんな」の中に埋没し、自分らしさを失ってゆく娘。「私たちは、自分たちの手で家族の形を作り、自分たちを容(い)れる場をつくり出す必要があった」という言葉が示すとおり、向こう見ずに見える人生も、自己を再生させるために考え抜かれた選択の積み重ね。直感的としか思えない行動にも、言葉にできない理論が息づいているのだ。多くの人が是とする人生の既定コースなど無視するかのような彼女たちの貧乏暮らしは、痛快で、とても眩しい。

週刊朝日 2012年10月19日号

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