街を行き交う大勢の人々。人はそれぞれの人生を歩んでいるが、赤の他人がその内容に触れることはまずない。本書に綴られた23編の“コラム・ノンフィクション”には、そんな市井の人々の生き方が描き出されている。
 突然、希望退職を切り出されたサラリーマン。「自分の生きがいが欲しい」とセックスフレンドを作った55歳の男性。「婚活」をすればするほど結婚から遠のく男女、日本で不当な待遇を強いられるガーナ人労働者。パチンコ中毒の妻に悩まされる男性。それぞれに物語を持ち、悩み、苦しみ、日々を生きている。
 著者はそんな彼らと適度な距離感を保ちつつ、声にならない心の叫びを丁寧にすくい取る。物語の多くは、昨今の日本を反映してか、困難な状況に直面している人が多い。読み手はそこに自分の人生を重ね、共感を覚え、時には励まされることになる。
 全ての物語は今もどこかで続いているはずだ。無名の登場人物たちは、表紙に描かれた街灯のような温もりを求め、人生を歩み続けているのだろう。

週刊朝日 2012年10月19日号

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