LSDという新種ドラッグの出現によって、突如一斉にサイケデリック文化が花開き、ヒッピーたちが「サマー・オブ・ラブ」と呼んだ季節──1969年8月に、50万人を集めて開催されたロックフェス「ウッドストック」。本書は伝説の舞台裏を、主催者マイケル・ラングが40年ぶりに回想したもの。
 当時ラングは24歳。徒手空拳の彼が数々のトラブルと妨害を、持ち前のクレバーさで乗り越え、フェス開催にこぎつけるまでの物語は、豊臣秀吉の「一夜城」ロック講談版を思わせる。すったもんだの末、会場が決まったのが開催日三週間前。スタッフたちは会場の設営整備に、コカインを吸っては夜通し励んだが、会場を仕切る柵と、当日券販売所は手をつけられなかった。よって「ウッドストック」はなし崩し的にフリー・コンサートとなり、ラブ&ピースの祝祭が成立したのだ。本書の白眉は、オープニング・アクトを務めたリッチー・ヘイヴンスが「フリーダム」を歌う瞬間──あのロック史に残る名演が、即興だったとは!

週刊朝日 2012年9月28日号