最近、急に秋めいてきて、朝晩は寒いとさえ感じるようになった。だというのに、小学6年の娘は、濡れた髪のまま眠ろうとする。どうしたのと聞くと、カゼをひきたいのだと言う。学校で連日何時間も運動会の練習があり、疲れるので休みたいのだそうだ。
娘は私と同じく体育が苦手で、走るのは遅いし、球技では身体が動かない。今年は組体操があるため練習が長時間に及んでいるのが辛いのだ。
「ねえ信じられる? 明日は午前中、ずーっと運動場にいるんだよ? 無理だよ。暑いし、私絶対いられない。だから、明日は学校休むの!」
娘の姿に中学生時代の自分が重なった。実は私も全く同じように濡れ髪でカゼをひこうと試みていた。しかも真冬に、暖房のない山梨県甲府市の実家で。あの時は、勉強の日々に疲れ、ただ、1日ゆっくりと休みたかったのだ。
「ママなんてね、雪の降る夜に濡れた髪で寝て頑張ったんだ。窓も開けて、これで完璧、と思ったんだけど、健康だから全然カゼひかなくてね。しかたないから体温計を蛍光灯にくっつけて、無理矢理温度上げてずる休みしたんだよ」
そこまで話してハッとした。
「そっかあ、体温計の数字上げるのってそうやるんだね。いいこと聞いた」
どうやら喋りすぎてしまったようだ。これからは娘が熱があると訴えてきた時は、正しい測定かどうか、疑ったほうがいいかもしれない。
そして翌日、娘はというとセキのひとつも出ず、渋々登校していった。けれど帰ってくるなり「保健室行ってた」と言うではないか。
「私ね、暑さでのぼせて鼻血出しちゃったんだよ」
「そうだったの。ということは、あなたの望み通り校舎の中に入れたのね」
「そうじゃないの。午後の算数が始まる時に鼻血が出ちゃったの。だから全然意味なかった。あ~あ、どうして午前中に鼻血が出なかったんだろう。もう本当に疲れたから明日こそずる休みしていい?」
「それは明日考えようね」
そして翌朝、なぜか息子が発熱し、学校を休んだ。
「俺、気温の急激な変化についていけないや、ハクション」
喉が痛い、とコンビニで買ってきた398円のハチミツを舐めながらぼやく兄を羨ましそうに横目で見ながら、娘は今日も元気に登校していったのだった。