ある日、メンズキャバクラのオーナーから「被災者の男の子が入店した」と知らされ、私は店に顔を出した。私は以前から、被災地の男の子がいたら一杯ごちそうしたいと言っているし、実際そうしているので、教えてくれたのだろう。
どれどれと出かけて行って、彼に一杯振る舞った。今までの場合は、震災時の苦労話などを聞いているうちに気の毒になってきて、フードなどを追加で頼んであげてもいた。お家が津波で壊れてしまって、自宅があった場所にプレハブを建てて両親が暮らしているんです、などという話をされたら、おごりたくなるのが人情というものだ。
けれど今回の彼は、何かが違った。どこか他人事なのである。彼は家は壊れていないけれど、原発の警戒区域に隣接した場所で暮らしていた。
家が壊れたわけではないけれど「みんなが避難しているから」と、移動することにしたのだという。行き先を東京にした理由も「友達が東京に行きたいと言ったから」。
しばらくは友達と借りたアパートで日雇いの仕事をしていたけれど、友達に彼女ができて、彼女が部屋に遊びに来るのが嫌でアパートを出て、今は、ホストの寮で暮らしているという。これから何をしたいのと聞いても夢は特にないと言う。
流されるままに生きてきた彼は、接客も適当だった。それでいて私が静かにホストのカラオケを聴いていたい時に「コラーゲン試したことってありますか?」などと、あまり答えたくもないことを、うるさく話しかけてくる。客が自分のほうを向いていないと不安なのだろう。
私は飲み代5000円を支払って店を出た。この彼を今後指名する気になれなかった。彼の顔は嫌いではない。けれど、彼の意志を持たない生き方は、好きではない。
彼は今までずっと、イヤなことがあったら逃げてきたという。このメンキャバでもイヤなことがあったらさっさと辞める気でいるだろう。でもそれでいいのだろうか。
彼には今度こそ逃げずに、接客を真面目に学び、自分の未来に生かしてもらいたい、と思う。特に、初対面の年上の女性に「コラーゲン使ってますか?」などという話題は口にしないように! ええ。使ってます。でもね、それは、女のヒミツなのだから......☆