「被災したイケメンさんにごちそうしたい」
私は常々そう言っていて、友人たちに、みかさんらしい考え方だね、と苦笑されてきた。一応私なりに本気だったし、自宅が半壊したイケメンくんの知り合いもいた。けれども彼は母方の実家に避難してしまったので、私の支援を届けることができない状態になった。なぜなら、彼のお母様は、メキシコ出身なので随分遠くなってしまったから。
他に被災男子と知り合いになる方法がわからなかったのだけど、この8月、ついに巡り会えた。自宅が全壊したという22歳男子である。瞳がうるうるしていて、肌が浅黒い、どこかアンバランスなイケメンさんだ。知り合いのバーのマスターに紹介されたのだけど彼は医療費負担がかからない、被災者用の免除証明書を持っていた。
暗い目をして壊れた自宅の模様を語る彼にすっかり同情した私は、パスタ店でいろいろごちそうした。そんなに高くはないけれど、彼はいっぱい食べてくれて、私もうれしかった。これで少しでも彼の心の苦しみが和らげばいいと思ったのだけれど、なぜかここで彼がサウナに行きたいと言い出した。
近くに温泉テーマパークがあったからなのだけど、私もなんとなくお風呂に入りたいものなのかもと考え、彼を連れて行った。入湯料は1280円だった。
男女別の温泉だったのだけど、最初に「僕は長風呂なんです」とは言われていたけど、彼が出てくるのの遅いこと遅いこと。早風呂で、サウナも5分と保たない私は、ぼうっとテレビを見ながら、彼を待ちに待った。1時間近く彼のほうが出てくるのが遅かったと思う。
きれいさっぱりした彼と、明け方まで、就職の話をした。東京で働きたいのだという。IT企業で働きたいのだけれど、どこがいいだろう、と、そういう話だった。被災地に戻るのではなく、東京で働きたいという。
彼のように東京で働きたいと希望する男子が何人もいると聞いている。どこかで優遇採用してくれる制度があるのかもしれないけれど私は知らず、大して役には立てなかった。
けれど都内にあまり知り合いもいない彼が仕事で落ち着けるまで、定期的に食事に誘うつもりだ。これもひとつの支援の形かと思っている。