私の娘は人見知りで、担任の先生とも、最初の3ヶ月くらいは会話をほとんどしない。日によっては私とも話をしたがらない時すらある。
私自身、中学の時、1年間男子生徒と話ができなくなったことがある。多分、急に男らしくなった彼らを意識しすぎたからだと思う。娘もあの頃の私のように、話したいけど緊張して言葉が出てこないのかもしれないから、会話を無理強いをさせる気はない。
私は娘には本物を見せたい。けれど本物は高い。オペラやバレエは、前のほうの席は料金が1万円を軽く超える。とてもムリだ。だからどちらも最後列に近い場所でいつも観ている。今までにバレエは白鳥の湖やジゼル、オペラならカルメン、と普遍的な人気のものを選んで見せてきた。絵画展はピカソやゴッホなどの有名どころを、映画もアカデミー賞作品の中から子どもが観ても大丈夫そうなものを10歳の娘に与えている。
ミュージカルは、帝国劇場で上演されている「レ・ミゼラブル」にした。最後列は4000円だった。本物の迫力、お芝居と歌の素晴らしさを知ってもらいたかったのだが、娘はこれにひどくハマった。
私も好きだから喜んで付き添うけれど、10歳でレミゼを4回も観るのはかなりマニアなのではないだろうか。
そして、このミュージカルのおかげで、娘にまさに"劇的"変化が起きた。彼女が喋り出したのだ。でもただ喋るのではない。ミュージカルの曲に載せて話しかけてくる。
「♪今夜の?夕飯は?なに?」
という感じだ。
そして私も同じように返すことを強要されているので、
「♪今夜は?チクワの?磯辺揚げ?それからトマト?サラ?ダ?ッ!」
と盛り上げなくてはならない。
つらいのは外に出た時だ。先日などはバス停で「♪これから?雨になりそう?ね?」という娘に「♪あらホント?お空が暗?いわ?」といつもの調子で答えてしまったため、周囲に注目され、恥ずかしい思いをしてしまった。
ミュージカルナンバーのおかげで娘は随分やかましい女の子になった。学校ではどうしてるかと思ったら、相変わらずだんまりだという。理由を聞いたら、誰もレミゼラブルの曲を知らないから、歌ってもわかってくれず、つまらないからだそうだ。