12時間耐久をしてしまった。といっても何かのレースに出場したわけではない。男の子と12時間もおしゃべりをし続けてしまったのだ。

 私は興味のない男の子とは1時間も話がもたないけれど、興味がある男の子とはずっと喋りたがる。半分取材でもあるのだけれど、その日は前からいろいろ聞き出したいと思っていた20歳そこそこのフリーター君を捕まえて耐久をスタートさせた。夜ご飯でも食べに行こうと呼び出したのだ。スタートは午後の8時。

 イタリアン食堂で2時間、まずは生い立ちを語ってもらう。そしてその後飲みに行って今までの恋愛話など聞かせてもらう。終電で帰ろうと思ったのに、お互いに話に夢中になっているうちに、気づいたらもう午前1時を回っていた。

 別のお店に移っても、さらに彼は語り続けた。堰を切ったかのように、中高生の時はこんなワルいことをした、最近はこんな失敗をした、などという、カッコつけている普段ならまずしないような秘話が溢れ出してきた。

 私たちは始発で帰ろうと言っていた。はっきりいって私は眠くてフラフラで、彼が言うには、途中、30分くらいテーブルで寝ていたらしい。それなのに始発が出る午前5時になっても話は止まらなかった。

 今までの自分を話し終えた彼が、いよいよ自分の今後のことについて話し始めたのだ。人生の先輩としてアドバイスしていたら、眩しい日光が目に入り、彼は散歩に行きたいと元気に言い出した。通勤時間まで暇を潰すから公園にでも行こう、と。

 私たちはコンビニで温かい紅茶を買って緑輝く公園のベンチに腰掛け、池など眺めながら、今度は好きな食べ物やマンガの話をした。そして最後に彼がぽつりと、
「もう、ネタ切れ」
 とつぶやいた。

 書籍『窓際のトットちゃん』では、トットちゃんが初対面の校長先生に4時間話し続けてネタ切れしたシーンがある。彼はその3倍の12時間、本当にぶっ続けで語り続けた。それだけ胸に溜めているものがあったのだろう。

 彼の通勤時間まで、私たちは黙って池を眺め続けた。不思議と居心地の悪さはなかった。静かな優しい時間がそこに流れていた。やがて彼は徹夜で職場に向かい、私はよろよろと自宅に戻り、睡眠をむさぼった。前の晩から頭に詰め込まれ続けたひとりの男の子の今までとこれからについて考えながら。