小学校では新学期がはじまったが、8月のベストセラーランキングを見ていてどうしても気になったのが、この『こびと大百科』だった。しかも、再登場。早々に入手してみると2008年の刊行とあり、今年の6月時点でなんと35五刷となっていた。
 写真と絵を多用したオールカラーのこの本、未見の方には、たとえば「クワガタ大百科」といった内容を想像してもらうといいかもしれない。クワガタでなければサイ、あるいはペンギン。生息域別に分けて、それらの外見的な特徴や生態を紹介する大百科の編集方法がそのまま踏襲され、21種類もの「コビト」が登場する。
 また、副題にあるとおり、この本はコビト観察のガイドブックとしても活用できる。服装や持ち物からはじまり、各コビトがどのように隠れ、動き、獲物を捕るのか、脱皮した抜け殻はどんなものかなど、注意すべき点はすべてビジュアル付きで解説されている。
 なお、それぞれの写真にはちゃんと立体のコビトが写っている。クサマダラオオコビト、カクレモモジリ、ツチノコビト、イケノミズクサ、ホトケアカバネ……。いわゆるキモカワイイ(気持ち悪いけど可愛い)とも違う、すっとぼけた無気味さを漂わせるコビトたち。もちろん、すべて作者の創作。紙粘土で作ったと思われるそれらのコビトは、しかし、ひょっとしたら本当にいるのではと期待させる奇妙な魅力を放っている。もしも小学校低学年の頃にこの本があったら、私はきっと、コビト探しに出かけただろう。
 やるからには徹底して真面目にふざける。このパロディの基本精神に則ってコビトの生態を具現化してみせた作者は、見えない世界に潜む別世界の可能性を子どもたちに伝える。別世界への探検はもともと子どもが得意とするところ。そして探検は夏と相性がいいから、来年の夏休みになったら、この本は再びベストセラーランキングに登場してくるに違いない。

週刊朝日 2012年9月21日号

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