作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、性産業について。
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コロナ禍で休業したデリヘル店が、持続化給付金などの対象外とされたのは「職業差別だ」と国を訴えていた裁判で、東京地裁が業者の訴えを退けた。訴えていたのはデリヘルを経営する女性だ。納税義務を果たし、真面目に営業してきたという。判決は、さぞかし悔しかっただろう。
国が給付金の対象外としたのは、公共法人、政治団体、宗教団体と、性風俗関連特殊営業の業者だ。デリヘル以外にも、ソープランド、個室ビデオ店、アダルトグッズ販売店、ラブホテルなど、風営法の届け出が必要な業者が一律にくくられ、給付金対象から除外された。
「アダルトグッズ」を販売している私の会社も給付金の対象外だった。幸いなことにネットショップのためコロナ禍の影響は受けなかったが、もし申請しなければならない経済状況で給付金が却下されたとしたら……私もきっと訴えただろう。
この国は気楽に「職業の貴賎」を突きつけてくるのである。私の例でいえば、アダルトグッズをネットで販売するためには「性風俗関連特殊営業」の届け出を出さなければならない。とはいえ、この届け出は、食品衛生責任者を置かなければ飲食店が開けないというような許可制の類いではなく、出したところで何の保障も権利も与えられない。むしろ届け出を出すことで社会的信用が失われることもある。例えば銀行は性風俗関連特殊営業の業者に融資はしないし、不動産屋にも敬遠される。部屋一つ借りるのにも、部屋の間取り図を全て警察に提出しなければならなく、そんな寛大な大家を見つけるのは至難の業だ。でも出さなければ仕事ができないし、でも出したら出したで………という負のループにはまり、「賤(いや)しい仕事はするな、やるなら覚悟しろ」と国から叱られているような気持ちになるのだ。
とはいえ、である。今回の裁判で、原告のデリヘル業者の主張がそのまま通るべきだったのかどうか、私はすんなりと答えを出せていない。しっかり納税してきたという女性経営者の悔しさには共感するし、排除は不公平だと、当事者として思う。一方、裁判そのものにどこかモヤモヤするのは、そもそも「性風俗関連特殊営業」とはいったい何なのかという、素朴な疑問からだ。いったいなぜこの国は「性風俗関連特殊営業」という業種を、わざわざ設定しているのだろう。