戦後から現在に至るまでも、さまざまな歴史的事件の風波を受けてきた香港の姿を、過去と現在を交差させながら描く香港・日本合作ドキュメンタリー映画「Blue Island憂鬱之島」(16日公開)。大国に翻弄されつつも、自らのアイデンティティーの獲得を渇仰し、探り続けざるを得ない香港人の内面の鬱屈が伝わってくる。チャン・ジーウン監督は「世界に共通する人間の苦悩、人間性の本質が描けたのではないか」と語る。
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チャン監督は現在35歳。2016年に長編ドキュメンタリー映画「乱世備忘 僕らの雨傘運動」で注目を集めた。2014年の大規模な市民運動「雨傘運動」を扱った映画で、山形国際ドキュメンタリー映画祭で小川紳介賞を受賞。香港の政治状況をテーマにした作品を多く手掛けてきた。今回は2作目の長編映画だ。
「構想は、『雨傘運動』直後のどん底の中で浮かびました。集団的な失意と絶望感に覆われながら、香港の別の大きな歴史的出来事を経験した人々を探し出し、彼らの経験を回想することで、市民活動における苦境の普遍性について思い巡らせました。プロジェクトが進むにつれ、この孤島に憂鬱な雰囲気が広がっているという印象は、2019年のデモ以降さらに顕著になり、本作のタイトルは、今私たちが置かれている宙吊りの状態(虚無感)にさらにフィットするようになりました」
撮影は2017年から始まった。
文化大革命(1966~77年)時代に中国を逃れ、泳いで香港に移住してきた人々。他方で、文化大革命に呼応する形で起きた英国や香港政府に対する六七暴動(1967年)に加わった者、天安門事件(1989年)の学生リーダー。香港にいる彼らが今、何を考え、どんな生き方をしているのかを描きながら、2019年のデモに参加した若者たちが「俳優」として、若き日の彼らを演じ、再現する仕立てになっている。
2020年に再現ドラマの出演者オーディションを始めた。応募者には2019年のデモに参加した若者が多かったという。