「これから法廷に向かう人もいれば、もしかしたら刑務所に行くことになるかもしれない人もいる。彼らとコミュケーションをとるうちに、それぞれの若者に絶望や失望があり、演じられる人に近いと感じた。すごく演技は下手でしたが、この人たちが持っている情緒、感情は、たとえ思想や政治的な方向、アイデンティティーが違っても過去の人たちと同じだと感じたのです」

 映画は、鋭角的に特定の政治テーマを切り出し、迫力のある映像で見せるものではない。どこか物憂げで比較的静かに流れていく。香港の歴史に詳しい人ほど深く味わえる内容ともいえる。しかし、例えば、北米最大のドキュメンタリー映画祭「Hot Docs 2022」で最高賞を受賞するなど海外での評価は高い。

「確かに、香港の話なので、海外の人が理解するのは困難なのかなと思ったのですが、逆にそれがよかったと感じています。意外と理解しやすく、手法が特別だったと指摘されました。精神的な部分、例えば人間の苦悩や葛藤、かつての活動家を今の若い活動家が演じるといった、異なるジェネレーションをコネクト(連結)させることで生まれる感情の波動は、世界に通じるのだと思います」

映画『Blue Island 憂鬱之島』より。(c)2022Blue Island project
映画『Blue Island 憂鬱之島』より。(c)2022Blue Island project

「演じる」という手法を通じて、今の若者が過去の抵抗運動の当事者の感情と共振し、かつ、今の観客にも「歴史的に繰り返される感情」を喚起させる。チャン監督は、文革に触発されイギリスに抵抗した六七暴動に加わった少年(現在は年配の経済人)と、少年を演じた2019年のデモに参加した現代の若者を牢屋に一緒に入れ、向き合わせた。中国を軸に考えれば、政治的志向は真逆の2人だ。

「この場面で、人間性の本質を少しは描くことができたのではないかと感じています。2人はアイデンティティーも政治的思想も全く違うのですが、その前に共に人間なんですね。互いに間違っていないと確信する理想があり、自分が間違っていないのに、なぜ間違っていると言わなければならないのか、という似た経験を持ちます。若者は年配者に50年後の自分の姿を想像し、年配者は若者に50年前の自分を重ね合わせ、自分も間違っていないと信じていた、と追想する。挫折感も含め、お互いが相手の中に自分を見るというコネクト(連結)ができたのはないか。互いに人間として思っていることを合わせることで、より豊かな映像が撮れたと思っています」

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