落ち着こう。問題はだ。そしてこの問題が一番ハードルが高いのだが、

「ヤジュさん」で話はまとまったのだが、最初に! 最初に「ヤジュさん」と呼ぶタイミング、これが相当に難しい。

 すぐさま「ヤジュさん」と呼ぶのもかなり勇気がいるし、ご本人から「おぉ、いきなりか!?」と思われるかもしれない。

 かといって、たとえば数日後に満を持して「や、や、ヤジュさん」と呼んだら、「ふふ。来たか。ココで持ってくるか。ココで例のものを持ってきたか」と思われそうな気がする。

 で、どうしたか。

 ちょうどその日、坂東彌十郎さん演じる北条時政と、僕が演じる比企能員が、酒の席で隣り合うシーンの撮影だった。

 ここを逃しては一生「ヤジュさん」と呼べないかもしれない。そう思った僕はこう切り出した。

「いや~、坂東さん、これからはヤジュさんとお呼びしようと思うんですがね、これ難しいのはですね、最初にヤジュさんとお呼びするタイミングなんですよね、なんというか、緊張しちゃうんですよね、あと、照れといいますかね、ありますでしょ、そういった感じ。ねぇ、ヤジュさん」

 来た。最初のヤジュさん、来た。まぶした。まぶして挿入した。挿入してまぶし込んだ。なんでもいいが、とにかく呼んだ。最初のヤジュさんを最後に呼んだ。随分と長いこと喋った果てに最後にさりげなく強引に呼んだ。さりげないのか強引なのかどっちなんだという感じでとにかく呼んだんだよ馬鹿野郎。

 本日2回目の馬鹿野郎が飛び出したわけだが、そしてお前は撮影直前に一体なにをやってんだという気もするが、さりげなく強引に呼ばれたヤジュさんは、普段通り、朗らかに微笑み、そのあと二人で晩酌の肴の話をしたのでした。

 で、不思議なもので、ヤジュさんと呼ぶようになったら、一気に対人ストロークといいますか、心の距離が縮まり、すっかり仲良しに。

 人の呼び方は難しいけれど、人との繋がりを愉しむための1つのツールと思えば、なかなか趣があるものかも、なんてことを思ったりしたのでした。

 あとはアレだ。

 撮影はちゃんとやってますぜ(←当たり前)。

 ヤジュさん演じる時政と、僕演じる能員の権力闘争、激化。「鎌倉殿の13人」、引き続きよしなに。

■佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

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