個性派俳優・佐藤二朗さんが日々の生活や仕事で感じているジローイズムをお届けします。今回は、大河ドラマでは熾烈な権力闘争を繰り広げている北条時政役・坂東彌十郎さんと「すっかり仲良し」になるまで。
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人の呼び方は難しい。
たとえば、放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で共演した坂東彌十郎さんのことを、僕はしばらく「坂東さん」と呼んでいた。
年齢的にも先輩だし、歌舞伎というジャンルの違いはあれど、キャリアだって大先輩なわけだから、名字に「さん」づけ。これ、一番無難だし、落ち着く。
でも、ある日、坂東彌十郎さんから笑顔でこう言われた。
「ヤジュでいいですよ」
や、や、ヤジュ!名字に「さん」づけから、一気に「ヤジュ」!
なんというか、軽い肩慣らし程度のキャッチボールから、いきなり160キロの豪速球を投げ込むようなものだ。
ものだじゃないし、なんで野球に例えたかよく分からんし、あまり上手く例えられてもいないし、そもそも俺、バンテリンドームで始球式やったとき球速65キロで、同じく始球式で140キロ以上出したティモンディの高岸(宏行)さんに「むしろそっちの方が凄いです」と言われたし、要するにだ。名字に「さん」づけという、安全地帯のぬるま湯に浸かっていた俺には、なかなかにハードルが高い呼び方ではないか。
以上のような心境が、数秒の俺の「…」の間に、俺の顔に出ていたのであろう。坂東彌十郎さんは朗らかな笑顔のまま、続けてこう仰った。
「ヤジュでも、ヤジュさんでも、いいですよ」
おぉ! 渡りに舟。ヤジュに「さん」がついた。名字に「さん」づけから、ヤジュに「さん」づけ。これなら120キロの投球練習から、150キロの全力投球くらいの差だ。だからなんで野球に例える? そして俺は65キロという史上稀に見る低速投球を晴れの舞台で披露し、同じく始球式で140キロ以上出した高岸さんに「140キロを出すより65キロを出す方が難しいです」と言われたんだよさっき同じこと書いたよ馬鹿野郎。