「純潔教育」を受けて育ったというカルト2世の中田友子さん(仮名)
「純潔教育」を受けて育ったというカルト2世の中田友子さん(仮名)

 安倍晋三元首相が銃撃されて死亡した事件で、殺人容疑で送検された山上徹也容疑者(41)。母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に多額献金した結果、家庭が崩壊したことで、教団への恨みが凶行の動機につながったと見られている。山上容疑者は、いわゆる“宗教2世”だ。信仰の種類や教義にかかわらず、親が信じる宗教を自分も信じなければいけないという点は共通しており、親の宗教や信仰によって精神的、経済的に追い詰められたり、現実生活や人生設計が思い通りにいかない「2世」は少なくないとされる。AERA dot.では昨年、「カルト2世に生まれて」として、親の信仰によって苦悩し、生きづらさを抱えた2世たちのインタビューを短期連載した。2世たちの声を改めて再掲する(年齢、肩書などは記事掲載時のもの)。

【写真】親が信仰する宗教で苦しめられた「カルト2世」たち

※カルトは「宗教的崇拝。転じて、ある集団が示す熱烈な支持」(大辞泉)とあり、本稿でもその意味で使用している。親が子に信仰の選択権を与えないほどに熱狂的な信者であり、そうした家庭環境で育った子どもを「カルト2世」と定義している。本稿は教団の教義や信者の信仰を否定するものではなく、一部の2世が感じている“生きづらさ”に焦点を当てることを目的としている。

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 事務職の派遣社員として働く中田友子さん(34・仮名)は、職場や友人との飲み会が苦手でほとんど参加しないという。職場での人間関係などが原因ではなく、それは子どもの頃の“恐怖”が体に染みついてしまったのかもしれない、と振り返る。

 友子さんの両親は1980年代に教団の「マッチング」による結婚式で結ばれた。父親は教団の幹部として各地を回り、母親も海外へ単身赴任して布教するほど熱心な信者だった。教団でいう「汚れなき神の子」として2世で生まれた友子さんは、原罪のない子として地上天国へ行ける、と教え込まれて育った。

 友子さんが8歳の頃から母親は布教のために単身で海外を巡るようになり、妹は近くの信者宅に預けられていたので、食事はいつも一人だった。

「父はいつも仕事で帰りが遅く、食事は近所の信者の方たちがおすそ分けしてくれたものやスナック菓子で済ませていました。とても貧乏だったので、電話はよく止まっていたし、ガスもたまに止められていました。孤食だったので人との会話は全く無かったのですが実際にはテレビをつけて食べていました」

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「いつもお金がなかった」