「大手法津事務所で扱っているのは主に『渉外企業法務』と呼ばれるもので、日本の海外進出にともなう法務は、『アウトバウンド業務』と呼ばれています。反対に、海外の企業が日本の不動産を購入したり、日本に拠点を作る場合の法務など、『インバウンド業務』もあります」
このほか、国連などの国際機関やJICA、外務省や法務省、経済産業省などで国際業務を担う弁護士もいる。
国連では特定の国の人権の状況をリサーチし、人権侵害問題に取り組んだりする。JICAでは途上国などの法整備の支援、外務省では条約の交渉を法的側面から支援する、などの仕事をしている。なお、ウクライナにおけるロシアの戦争犯罪の訴追で話題になっている、オランダ・ハーグの国際司法裁判所にも日本人弁護士が勤務している。
「政府は『司法外交』と言って、基本的人権の尊重など日本で作られた民主主義社会の価値を、アジアをはじめ、世界に浸透させていく取り組みに力を入れています。このため、各省庁で弁護士を積極的に活用しようとしています」
須網教授によれば、さらに広い意味での海外業務として、海外に住んでいる日本人からの法律相談(日本での離婚手続きなど)や日本に来た外国人、あるいは来る予定の外国人の法律相談、難民事件などもあるという。
「最近はインターネットを通じて国際取引がおこなわれますし、中小企業の国際取引もさかんです。こうした企業からの依頼は個人の弁護士事務所にも、多く来ていると思います」
弁護士として国際業務をやりたい場合、決まったルートはない。
「若い方は英語でコミュニケーションをとることに慣れているので、留学などをしなくてもできる仕事は多いと思います。一方、留学を希望する場合、数は少ないですが、は法科大学院の交換留学制度を利用するのも一つの方法です。在籍した状態で留学できるので授業料の負担が少なくすみます」(須網教授)
海外での学びが土台にあれば、弁護士になった後、早い時期から国際業務を担うことができるかもしれない。なお、日本弁護士会には海外のロースクールへの推薦留学制度や国際会議への若手派遣制度、国際公務キャリアサポート制度などの支援制度がある。国際業務に興味を持つ人は臆せず、チャレンジしてほしい。
(文・狩生聖子)
須網隆夫
早稲田大学法学学術院大学院法務研究科教授/1979年東京大学法学部卒。81年弁護士登録。コーネル大学ロースクール(LL.M)、横浜国立大学助教授などを経て2004年より現職。専門はEU法、国際経済法
※アエラムック『大学院・通信制大学2023』より