■悩みを抱えた人が気楽に集まれる「場所」を作ろう

※アエラムック『大学院・通信制大学2023』より
撮影/加藤夏子(写真映像部) ヘアメイク/知久亜矢子
※アエラムック『大学院・通信制大学2023』より 撮影/加藤夏子(写真映像部) ヘアメイク/知久亜矢子

 さまざまな葛藤を抱えながらも、タカラジェンヌの最高峰に立つ一人として輝き続けた美園さん。「やり遂げた」と思うことができたとき、退団を決意した。2021年8月、舞台を降りた。

 先のことは考えず、まずは通信制大学に復学し、卒業することに力を注いだ。ひとつの道が見えたのは、勉強のために通っていた図書館で偶然1冊の本を手にしたときだった。

「ボランティアをしている方のエッセイを読んで、素敵だなぁって思ったんです。私はいままで、数えきれないくらい多くの人に支えられてきました。私も誰かの役に立つことで恩返しができたらいいなぁって」

 すぐに地域のいろいろな世代の人たちが集う「子ども食堂」でボランティアとして働き始めた。自治体主催の子ども向け講座の手伝いもした。年下の世代と向き合うなかで、気づいたことがあった。

「彼らはSNSネイティブなんですよね。すごくいろんなことを知っていて、人とのかかわり方もものの言い方も大人びている。いい子なんです。でももっと怒ったり、泣いたりしていいんじゃない? 泥臭い人間関係でもいいんじゃない? それが人生の彩りになるのにって」

 ふと、思い出した。誰にもつらさを打ち明けられなかった自分を。逃げ道さえふさいで走り続けた自分を。あの頃の自分が欲しかったものは何だった? それは「美園さくら」という名前を持たない自分の、ありのままの気持ちを伝えられる「場所」だった。

「いろんな人が匿名で集まれるプラットフォームを作りたいと思ったんです。といっても深刻な場所ではなく、ゲームやエンタメ感覚で集まって、そこで悩みを気軽に話せたり、ときには臨床心理士さんに話を聞いてもらえたり、私のような人が自分の経験を語ったり……。気楽に集うことができる『場所』がネット上にあれば、過去の私のような人も救われるんじゃないかなって。それが大学院進学を決めたきっかけでした」

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もっといろんな逃げ場を持てる社会に