おばの期待を裏切りたくなくて、高1と高2の2回だけ受験することにした。倍率は20倍を軽く超える超難関。受かるなんて想像もしていなかったが、二度目の受験で見事合格を勝ち取った。音楽学校は首席で卒業。新人公演でヒロイン役をもらうことが増え、多くのファンが応援してくれるようになった。順風満帆に見えたが、それは喜びだけの日々ではなかった。
「芸能の世界って、生まれ持った天性の能力に左右される部分が多いんです。どんなに努力しても報われない現実に、打ちのめされることが本当に多い。けれど、数少ないチャンスは、やはり努力している人にしかおりてきてくれません。それが尊いし、たまらない魅力でもあるんです」
不確かな世界の中で、成功したい欲求と、自分には無理だというあきらめの心が混在していく。そんなとき、美園さんの心のうちに「学びたい」という思いが膨らんだ。宝塚の舞台に立ちながら、通信制の大学で学び続けるという選択をしたのだ。
「私には学問があると思うことで、心の平穏を保つことができたんです。『逃げ道』というとネガティブな印象を持つかもしれないんですが、あえて逃げ道を用意することで、芸能の世界にも前向きになれました」
専攻は法学部政治経済学科。通信制とはいえ、単位をとるには土日に試験を受けるか、スクーリングに参加する必要があった。
「週末は舞台があるので、日程調整が本当に大変でした。それでもがんばれたのは、やっぱり『学ぶこと』をあきらめたくなかったんですね」
けれど、トップ娘役への就任でそれも不可能になった。大学は休学。トップ娘役としてのプレッシャーは大きく、過度のストレスから湿疹が全身に広がり、治療を受けながら稽古を続けたときもあった。逃げ道もなく、追い詰められていく自分がいた。
「つらくて、誰かに相談したい気持ちはあるんです。でも言えない。人前に立つ仕事ですから、自分の悩みを赤裸々に誰かに話すなんてできないと思っていましたし、弱い自分を認めたくないという気持ちもありました」