●天狗を遣う火伏せの神さま
ほかにも「秋葉神社」の秋葉権現(神道としてはカグツチなど)、「金刀比羅神社」の金比羅権現(神道としては大己貴神など)が信仰されてきたし、これら権現の眷属として大きな団扇をもつ烏天狗がそばに祀られている。これらの神仏のつながりが広がって、たとえば四国のこんぴらさんのお土産が「うちわ」になったり、大己貴神が大国主神と同一視されることから大国主神が祭神の神社でカラスが縁起物になっていたりする。いずれにしても、水の神も火伏せの神仏も、火を「消す」ことも「あおる」こともできる眷属をそばに置き、人々を見張らせていたのである。
●最も世界中で活躍する火の神々
そしてもっと身近な火の神としてかまど神や三宝荒神といった家のカマドに祀る神がいる一方、火山など噴火する山々の神、例えば浅間権現(木花開耶姫命)、鳥海山大権現(大物忌大神)など特定の火山に住まう神もいる。書き連ねると紙幅がいくらあっても足りなくなるのでこの辺りにしておくが、実はこのような神々は世界中に点在している。宗教・宗派を問わず、火の神は世界中で恐れられてきたのである。ギリシア、ローマ、メソポタミア、北欧、スラブ、マヤ、インド、中国など古代の文明に残る神話の中に火の神は必ず登場し、ほとんどが恐れられる対象として記述されている。
つまり、昔から「火」も「水」も人間にはコントロールできない、神々の領域のワザのなせるところであり、怒りに触れることがあれば神は火を吹き、水を取り上げ、大風を巻き起こすものであると人々は考えてきた。今も当然、神が火を吹いたわけではないだろうが、乾いた大地では自然に発火するし、些細な火種が大火となって人間に襲いかかる。数千年の歴史の中で、人間がコントロールできたのは、もしかしたらかまどの中の火だけかもしれない。異常気象などと言っても、所詮は地球が繰り返してきた気候変動にすぎないわけで、むしろ、神々が人類に対して不満を持っているために起こる事象だと思う方が、むしろ気が安まったりするのではないかと、このところ悟ったふりなどしているのである。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)