密着取材中には、リアクション芸人界の盟友であるダチョウ倶楽部の上島竜兵さんが亡くなったという出来事があり、出川が上島さんについて涙ながらに語る場面もあった。

 そして、最後のシーンが圧巻だった。100日の密着取材を終えた後、101日目に出川がスタッフに呼び出され、ジェットコースターに乗ることになる。ジェットコースターに乗せられるというのは、出川がリアクション芸人として世に出た最初の企画であり、彼にとって原点とも言えるものだった。

 そこで出川はジェットコースターに乗ったまま「プロフェッショナルとは?」という問いに答えることになる。番組の通常の流れなら、取材対象者が格好良く持論を述べる場面で、出川にはジェットコースターの座席という特等席が与えられた。彼は上下左右に振り回され、恐怖に顔をひきつらせながら、懸命に言葉を絞り出す。

「プロフェッショナルとは……ぶれないこと、ぶれないこと! ぶれないで自分……ぶれないで自分……ぶれないで自分の信じることをやり続けること!……それを仕事としてやっている人は、みんなプロフェッショナルなんじゃない!……俺もプロフェッショナルになりたーい!……俺も……俺もプロフェッショナルになりたい!」

不思議とこの場面は何度見ても笑って泣けた。メッセージの内容とそれを言わされている状況が見事な調和を見せていて、よくできた映画のクライマックスシーンのような問答無用の説得力があった。

 そんな出川にはリアクション芸の未来が託されている。昨今のテレビバラエティ業界では、この種の芸が存亡の危機にある。体を張る笑いに対して世間の風当たりは強く、放送倫理・番組向上機構(BPO)が「痛みを伴う笑い」について警鐘を鳴らしたこともあった。番組内でも出川がパンサーの尾形貴弘に諭すように語る場面があった。

「大丈夫、崩れないから。もうそれは、やり続けるから」

 その後、歌舞伎がいまや古典になっているように、現代のリアクション芸も一種の伝統芸として、特殊な訓練を受けた人がやっているということにすれば今後も生き残れるのではないか、と現実的な対策を語っていた。

 リアクション芸の未来がどうなるのかはわからないが、この強くて優しい日本一のリアクション芸人の未来だけは明るいものであってほしいと願うばかりだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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