「口腔扁平苔癬は自然治癒することはなく、ステロイド剤などによる治療をおこないます。まれにがん化することもあるので、注意が必要です」
がんの発症リスクがある状態は「前がん状態」、よりリスクが高い場合は「前がん病変」と呼ばれていたが、近年はこれらをまとめた「口腔潜在的悪性疾患」という概念がWHO(世界保健機関)によって提唱されている。「口腔におけるがんの発生リスクを有する臨床的状態」と定義され、口腔扁平苔癬はその一つだ。
■がんの発症率が高い白板症・紅板症
とはいえ、扁平苔癬からのがんの発症率は0・4~4%程度で、高くはない。よりがんの発症率が高く、口腔潜在的悪性疾患の代表といえるのが、「白板症」と「紅板症」だ。白板症のがん化率は3・1~16・3%、紅板症は50%前後だ。
口の中の粘膜が白色に変化し、こすっても落ちないのが白板症で、さらに隆起したり、潰瘍ができていたりするとがん化率が高く、すでにがん化していることもある。舌や口底(下あごの内側)が白色に変化している場合も注意が必要だ。形状やできた場所によってリスクが高いと判断されれば、予防的に切除する。リスクが低ければ、切除はせずに定期的に経過を観察する必要がある。
粘膜が鮮紅色に変化する紅板症は、組織を採取して検査(生検)すると、すでにがん化していることが多い。このため、紅板症が見つかったら、切除するのが望ましい。
「口腔潜在的悪性疾患は、見た目に変化が現れるので、見つけやすいように思われるかもしれませんが、自分で口の中をまんべんなく観察するのは、限界があります。気になるところがあれば、歯科や口腔外科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科で診てもらうのはもちろん、定期的に歯科健診を受けることも大事です」(中村歯科医師)
■刺激が多く、多様な病気が発症しやすい
口に発生するがんは口腔がんと呼ばれ、できた部位によって舌がん、口腔底がん、頬粘膜がん、下歯肉がん、上歯肉がん、硬口蓋(こうこうがい)がん、口唇がんに分類される。なかでも多いのが舌がんで、口腔がんの6割近くを占める。舌の側面にできることが多く、上部分(舌背)にできることはほとんどない。