テレビ、マンガ、映画、音楽......と大ヒット作品が続々と生まれた、日本のエンタメ黄金時代。その裏には常に慣習やルールを突き破ってきた伝説的なプロデューサーやクリエイターたちの存在がありました。なぜ彼らは成功者となれたのでしょうか。
書籍『エンタの巨匠 世界に先駆けた伝説のプロデューサーたち』は、「日本のエンタメが最も輝いていた時代に最先端にいたプロデューサー、ディレクター、クリエイターたちへのインタビューを通して、伝説的なヒット作品を生み出した思考回路を解明するという試み」(同書より)をおこなった一冊です。話を聞いたのは次の6名。
・土屋敏男(『電波少年』の元・日テレプロデューサー)
・鳥嶋和彦(『ドラゴンボール』の元・少年ジャンプ編集長)
・岡本吉起(『バイオハザード』『モンスト』のゲームクリエイター)
・木谷高明(『新日本プロレス』のブシロード創業者)
・舞原賢三(『仮面ライダー電王』『セーラームーン』の映画監督)
・齋藤英介(サザン、BTSの音楽プロデューサー)
1980年代、1990年代を過ごした人であれば、名前は知らずとも彼らが手がけた作品を知らない人はいないのではないでしょうか。
興味深いのは、「彼らは初めから才気走った異能者だったわけではない」(同書より)ところ。6人全員が、普通のサラリーマン、もしくはそれに近いポジションからキャリアをスタートさせ、"使えない新人"だった時代を経て、やがて組織の中で成果を出し、その成果によって高い評価を得た者たちなのです。
同書の著者・中山淳雄さんによると、彼らに共通する点は「『エンタメ脳』と総称できるような作品作りへの向き合い方のスタンス」(同書より)だといいます。会社に属しながらも圧倒的な「個としての力」があり、「すごい仕事をする人は、すごい方法論を自ら編みだしてきた」(同書より)のだと分析します。
元・日本テレビプロデューサーの土屋さんも同書のインタビューで、次のように話しています。
「誰にだって天才の芽はあるんです。(略)内的に自分がやりたいものを個として突き詰める。そこに到達して具現化する。僕が天才だったわけではなく、これだったら面白いと思うものを、純度を高めて、誰にも相談せずにやりきった。だからウケたんだと思います」(同書より)
彼らの働き方や仕事への取り組み方からは、学ぶべきポイントが多く見つかることでしょう。
そして、作り手だけでなく、彼らを雇う企業にも中山さんの目は向けられます。中山さんは同書で「尖った人物に『個の力』を発揮できる場や裁量を与えられる許容性」こそがいまの日本企業に必要だと記します。
2000年代以降、韓国や中国が次々と世界進出する中で、かれこれ20年以上も長い停滞期間にある日本のエンタメ業界。ふたたび活気を取り戻すためには、組織にとっても人材が育つための環境を用意するべきだと改めて認識する必要があるのかもしれません。同書は過去を振り返るだけでなく、日本のエンタメ業界の未来まで見据えた一冊になっています。
[文・鷺ノ宮やよい]